特別受益とは、一部の相続人が被相続人から遺贈や贈与によって取得した財産のことです。
特別受益の持戻しの計算方法や遺留分との関係、事実上の放棄とはどんなものなのでしょうか?
この記事では、特別受益について、日野市・八王子市・立川市で相続手続き・遺言作成サポートをしている行政書士法人ストレートが解説します。
目次
特別受益とは?贈与と遺贈の意味
相続人が被相続人からの遺贈や贈与によって取得した財産を特別受益といいます。
- 遺贈とは・・・被相続人の遺言によって、相続開始時に財産が他人に譲り渡されること
- 贈与とは・・・財産をタダで他人に与えること
特別受益にあたる贈与は、相続人の婚姻・養子縁組・生活資金(生計の資本)を目的とする贈与だけなのに対し、遺贈は目的を問わず特別受益にあたります。
ちなみに、相続人でない親族や相続放棄した人が被相続人から遺贈や贈与を受けても特別受益にはあたりません。
特定の人が特別受益を受けたときは、特別受益を考慮せずに相続分を算定すると不公平をもたらすことがあります。
不公平を解消する特別受益の持戻しと計算方法
相続人の間での不公平感を防ぐため、相続分の計算において特別受益を考慮するしくみがあります。
相続分の算定の際に、相続財産に特別受益にあたる財産の価値を戻して計算するというものです。これを「特別受益の持戻し」といいます。
持戻しをすることで算出される被相続人の財産の価額を、みなし相続財産と呼んでいます。
みなし相続財産に基づき、各相続人の持続分(具体的相続分と呼ばれる)を算出します。
なお、遺贈に関しては相続開始時点で相続財産に含まれているため、遺贈の価額の持戻しをして計算する必要はありません。
- 【みなし相続財産の計算】
- 相続財産+特別受益の価額=みなし相続財産
- 【各相続人の具体的相続分の計算】
- 特別受益を受けていない相続人:みなし相続財産×法定相続分
- 特別受益を受けた相続人:みなし相続財産×法定相続分-特別受益の価額
より具体的な計算例を紹介しましょう。
たとえば、相続財産が6000万円、相続人がA・B・Cだとします。
Aは被相続人の生前に1500万円の贈与をされていた場合、相続財産6000万円に加えた7500万円がみなし相続財産にあたります。
みなし相続財産をもとにA・B・Cの具体的相続分を算出すると、法定相続分はそれぞれ3分の1なので2500万円ずつの相続分が認められます。
ただし、贈与により生活資金として1500万円の財産を取得したAに関しては特別受益を受けたと扱われます。
したがって、法定相続分から特別受益の価額1500万円を差し引いた1000万円のみを相続します。
- 具体的相続分
- A:2500万円-1500万円=1000万円
- B:2500万円
- C:2500万円
これによって、相続人の間で不公平感を解消するのです。
このとき、みなし相続財産から算出した相続分から特別受益の価額を差し引いた結果、特別受益を受けた相続人の具体的相続分がゼロ以下になる場合があります。
この場合、具体的相続分はゼロになりますが、特別受益を受けた相続人は遺贈や贈与を受けた財産を他の相続人に渡す必要はなく、引き続き持ち続けることができます。
持戻しの免除が認められるケースとは
被相続人が特別受益の持戻しを行わない考えを示すことを持戻し免除の意思表示といいます。
持戻し免除の意思表示は主に遺言で行われますが、それ以外の方法でも可能です。
被相続人がAに対する1500万円の贈与について「持戻し免除の意思表示」をしていた場合は1500万円の価額を相続財産に戻して計算しません。
この場合、Aは相続財産6000万からの相続分2000万円に加え、1500万円の贈与を取得することができます。
生存配偶者の保護を打ち出した最近の相続法改正と具体例
たとえば、夫が死亡し、相続人が妻と子1人である場合、夫の相続財産が3000万円のときは法定相続分に従うと、妻と子1人がそれぞれ1500万円を相続することになります。
夫としては自分の死後も妻が安心して利用するため、自分が生きている間に妻に対して居住用の土地・建物(3000万円相当)を贈与することも想定されます。
しかし、生活資金としての贈与は特別受益にあたるため、具体的相続分の算定において特別受益分3000万円の価額が相続財産に持ち戻されると妻の具体的相続分はゼロになってしまいます。
このとき妻は居住用の土地・建物に住み続けられますが、それ以外に現金や預金などを相続することができません。
これでは、被相続人死亡後の生存配偶者の生活に対するサポート体制が十分とはいえません。そこで2018年に成立した相続法改正(2019年7月1日に施行)が行われました。
相続法改正によって、婚姻期間20年以上の夫婦間で、居住用の土地・建物の遺贈・贈与が行われた場合、原則としてその価額を相続財産に持ち戻さなくてもいいことになったのです。
これを持戻し免除の意思表示の推定といいます。
被相続人が持戻し免除の意思表示をしていなくても、持戻し免除の考えが示されていたものとして扱われます。
相続法改正の目的のひとつに、生存配偶者の保護が挙げられますが、特別受益に関する改正も生存配偶者を保護する姿勢が強く打ち出されています。
民法改正による特別受益の時効と遺留分計算について
遺留分を算定する際は、相続財産に加えて贈与した財産の価額も含まれるため、特別受益にあたる贈与も遺留分を算定するための財産に加算されます。
なお、2019年7月1日施行の民法改正によって、遺留分の算定における特別受益の範囲について、原則として相続発生から10年以内の生前贈与に限られることとなりました。
これにしたがって遺留分を算定した結果、特別受益が遺留分を侵害している場合は、遺留分侵害額の請求をすることが可能です。
ちなみに、改正した民法が施行されるより前に開始した相続(2019年6月30日以前)に関しては適用外なので、何十年も昔の贈与であっても特別受益として扱われる可能性があります。
事実上の放棄とその問題点について
みなし相続財産から具体的相続分を計算した結果、特別受益を受けている相続人の具体的相続分がゼロになる場合があります。
このとき、特別受益を受けた相続人が「特別受益を受けているから相続分は受け取らない」と主張することを事実上の放棄と呼びます。
事実上の放棄を行う場合、本来の相続放棄とは違い、家庭裁判所における手続きなどは不要です。
遺産分割協議書の中で、特別受益を受けているため自分の具体的相続分がゼロであると記載することで事実上の放棄をすることができます。
ただし、遺産分割協議書は家庭裁判所の手続きこそ不要ですが、相続人全員の同意の下で作成しなければなりません。
事実上の放棄をするもう1つの方法としては、相続分不存在証明書を作成することです。
相続分不存在証明書は事実上の放棄をする相続人が単独で作成できるので、遺産分割協議書よりも簡単に事実上の放棄ができますが、問題点もあります。
特別受益を受けた相続人の具体的相続分がゼロになることで、相続財産が特定の相続人に集中するケースがあります。
これを利用し、特定の相続人に相続財産を集中させる目的で家庭裁判所の手続きなどを省略するため、相続分不存在証明書を作成することがあります。
このとき、実際は特別受益を受けていないにもかかわらず、相続人が相続分不存在証明書の作成を強要される可能性があります。
しかし、特別受益を受けていない相続人には相続不存在証明書の作成を依頼してはいけません。
特別受益に関するまとめ
- 特別受益の持戻しによって相続人の間での不公平感を是正する
- 被相続人の意思表示があれば持戻しの免除が認められる
- 相続法改正によって特別受益を受けた生存配偶者の保護をより強化する姿勢が認められた
- 民法改正により相続開始から10年以内の贈与に限り特別受益に該当することとなった
以上、特別受益について解説しました。