遺産を誰にどのように分けるかを話し合う遺産分割協議は、相続人全員で話し合います。また、遺産分割協議がもめてしまってまとまらないときは、家庭裁判所に遺産分割の調停あるいは遺産分割の審判を申し立てることができます。
この記事では、遺産分割協議と遺産分割協議がまとまらない場合について、日野市・八王子市・立川市で相続手続き・遺言作成サポートをしている行政書士法人ストレートが解説します。
目次
遺産分割協議に期限はあるのか?
相続財産を放置し続けることはさまざまな観点から好ましくはありません。
しかし民法では、相続人全員が参加する遺産分割協議に関して、いつまでに成立させなければならないという期限を設けていません。
遺産分割協議は相続人全員が出席して話し合う方法の他に、あらかじめ書類による分割案を作成し、各相続人に郵便などで送り、内容を検討して全員の合意を取る方法などがあります。
遺贈や相続によって相続財産を取得した受遺者や相続人は、相続税の課税対象者に含まれます。
ただし、相続人が配偶者である場合は、「配偶者の税額の軽減」によって相続税がかからないようにする(あるいは低額にする)ことができます。
また、被相続人が事業用や居住用で利用していた土地を遺贈や相続によって取得した場合は、「小規模宅地等の特例」により、一定の要件の下で税額の控除が認められます。
これらの特例を受けるためには、相続人や受遺者が申告期限内に控除を希望することを記載した申告書と、添付書類として遺産分割協議書の写しなどを提出しなければなりません。
したがって、遺産協議書自体に期限はありませんが、相続税の申告期限との関係では上記の特典を受けるため、10ケ月以内に遺産分割協議を成立させる必要があります。
相続人の中に未成年者がいる場合
遺産を誰にどのように分けるかを話し合う遺産分割協議は、代襲相続人や法定代理人、包括受遺者も含めて相続人全員で行います。
1人でも不参加だと協議が成り立ちません。
相続人に行方不明の人がいる場合は財産管理人が、未成年者がいる場合は法定代理人が必要となります。
一般的には親権者(未成年者の父母または養父母)が未成年者の法定代理人になりますが、親権者も相続人の1人である場合、利益相反行為が生じるため代理人にはなれませんので、被相続人の住所地の家庭裁判所申し立てをして「特別代理人」を選任してもらいます。
申し立ては親権者や他の相続人などが行います。
遺産分割協議書の作成は必要なのか?
遺産分割協議がまとまったら「遺産分割協議書」を作成します。
作成は義務ではありませんが、後日のトラブルを避けたり、相続税の申告や相続財産の名義変更をしたりするのに必要なので作成をしておいたほうがいいでしょう。
また、配偶者の税額軽減の特例などの相続税について特例を受けるには遺産分割協議書が必要です。
遺産分割協議書は相続人の数だけ作成し、各自1通ずつ保管します。
遺産分割協議にあたっては、相続人全員の合意に基づき、法定相続分などと異なる配分をすることが可能です。
また、特定の相続人が相続財産の配分を受けないとする場合、本来は相続放棄の手続きをとる必要があります。
しかし、遺産分割協議によって相続財産を特定の相続人のみが取得すると定めれば、相続財産の配分を受けない相続人について相続放棄と似た状態を作り出すことができます。
これを事実上の相続放棄と呼ぶことがあります。
その他、相続財産の配分を受けない相続人が、自分に相続分が存在しないことを証明する「相続分不存在証明書(特別受益証明書)」を作成することがあります。
相続分不存在証明書には署名と実印による押印が必要で、相続分不存在証明書を作成した相続人は遺産分割協議に参加する必要がなくなります。
しかし、相続財産の配分を受けない相続人も、自分の法定相続分の範囲において借金などの債務は承継するため、相続放棄した場合を除いて故人の債権者からの支払い請求に応じなければなりません。
遺産分割協議がまとまらないときは
遺産分割協議がもめてしまって話し合いすらできない状態のときは家庭裁判所に「遺産分割の調停」あるいは「遺産分割の審判」を申し立てることができます。
調停では家事審判員や調査委員の立ち会いをもとに、相続人が集まり、合意を目指して話し合います。
家事審判官や調査委員はアドバイスをしてくれますが、結論は当事者が決定することで調停が成立します。
調停成立後、相手方が結論に従わないときは強制執行が可能です。
調停の申し立ては、相手方の住所地の家庭裁判所または当事者が合意で定める家庭裁判所に以下の書類を提出します。
- ①申立書
- ②当事者等目録
- ③被相続人の除籍謄本・改製原戸籍謄本など(相続人によって異なる)
- ④相続人全員の戸籍謄本・住民票
- ⑤遺産に関する書類(遺産目録・不動産登記事項証明書・限定資産評価証明書・預貯金の残高証明書等)
審判では分割方法が強制的に命じられる
審判は家庭裁判所に委ねられます。裁判所が事実調べ・証拠調べを行い、家事審判官によって分割が命じられます。
申し立ては被相続人の住所地の家庭裁判所に行います。
審判による分割方法が不服な場合は、2週間以内に高等裁判所に即時抗告をして争うこともできます。
いきなり審判を申し立てることもできますが、調停に回されることが多く、調停が不成立となった場合は自動的に審判に移行します。
遺産分割のやり直しは可能なのか?
いったん有効に成立した遺産分割協議について、相続人全員の合意が得られた場合は後からやり直すことが認められます。
協議全体および、一部の相続財産に関する遺産分割協議のみをやり直すこともできますが、成立したはずの遺産分割協議が後から無効になったり、取り消されたりする場合がある点には注意しましょう。
遺産分割協議が無効になる場合として、相続人全員が遺産分割協議に参加していない場合が挙げられます。
遺産分割協議は相続人全員が参加しなければならず、一部の相続人が参加していない遺産分割協議は無効となるのでやり直さなければなりません。
ただし、被相続人の配偶者と子による遺産分割協議の成立後、子の認知が生じて相続人が追加されることになった場合は、遺産分割協議をやり直す必要はありません。
このとき、認知された子は他の相続人に相続分に相当する金銭の支払いを請求できるに留まるからです。
遺産分割協議の成立後、新たな相続財産が見つかった場合も遺産分割協議を全てやり直す必要はなく、その財産についてのみ、新たに遺産分割を行うことができます。
なお、遺産分割協議は、相続人全員の意思を合致させて相続財産を配分するという性質の行為であるため、契約などと同様に錯誤や詐欺に基づく取り消しによって、遺産分割協議の効力が否定される場合があることにも注意する必要があります。
遺産分割協議と協議がまとまらない場合についてのまとめ
- 相続人のうち1人でも不参加だと遺産分割協議は成り立たない
- 遺産分割協議書の作成は義務ではないがトラブル回避や名義変更の際に必要なので作成するのが望ましい
- 遺産分割協議がまとまらないときは家庭裁判所に「遺産分割の調停」あるいは「遺産分割の審判」を申し立てる
以上、遺産分割協議と協議がまとまらない場合について解説しました。