遺言によって残された人に自分の意思をはっきりと残すことで、相続時の財産分割をめぐるトラブルを防ぐことができます。また、遺言書には何を書いてもいいですが、法的に有効な遺言事項は限られるので、作成の際は注意が必要です。
遺言作成の準備のためには、財産目録を作成しましょう。財産目録は誰にどの財産を相続させるかを検討するうえで役立ちます。
この記事では、遺言書の必要性と作成の準備について、日野市・八王子市・立川市で相続手続き・遺言作成サポートをしている行政書士法人ストレートが解説します。
目次
遺言書の必要性とその理由
相続時の遺産分割をめぐるトラブルは多く見受けられます。
遺言がなくても相続人同士の話し合い(遺産分割協議)が円滑に進み、相続を終えることもありますが、相続人同士の争いによって相続後の人間関係が悪くなることも考えられるでしょう。
遺産分割における法定相続分はあくまでも目安なので、相続人それぞれの家庭の事情や人間関係などによっては法定相続による分割が妥当であるといえないケースもあります。
遺産相続では法定相続よりも遺言による相続が優先されるという前提があるので、遺言によって被相続人の意思が明確にされていれば相続争いを防ぐことができるでしょう。
また、遺言によって相続権のない人に財産を譲ることも可能です。
財産をどのように管理・整理し、相続につなげるかをはっきりさせるためにも遺言書を書くことをおすすめします。
なお、遺言は原則として15才以上であれば作成できます。
遺言を書いておいたほうがいい場合 | |
子どもがいない夫婦の場合 | 配偶者に全財産を相続させた場合、「妻に全財産を相続させる」と遺言しておくことで、被相続人の父母が遺留分を主張しても全財産の6分の5を相続させることができます。相続人が被相続人の兄弟姉妹の場合、遺留分はないので全財産を配偶者に渡せます。 |
内縁関係の相手に財産を譲りたい場合 | 法律上の婚姻関係にない相手に相続権はないので、内縁の相手に財産を渡すには遺言を残しておかなければなりません。 |
相続関係が複雑な場合 | 再婚をしていて、現在の妻にも繊細にも子どもがいる場合、子どもに法定相続分とは異なる相続をさせたい場合は相続分や財産の分割方法を指定しておきましょう。 |
認知した子がいる場合 | 非嫡出子の法定相続分は嫡出子と同等なため、これと異なる相続にしたい場合は遺言で相続分や財産の分割方法を指定しておく必要があります。 |
認知していない子がいる場合 | 生前に認知できなかった子どもを遺言によって認知しておくことで子どもは相続権を得られます。胎児の場合も認知できます。 |
相続人がいない場合 | 相続人がいないと財産は国庫に帰属します。特定の人や団体に遺贈・寄附するなど財産の処分の仕方を遺言しておきましょう。 |
相続権のない人に財産を譲りたい場合 | 特に世話になった子どもの配偶者や知人などに財産を送りたい場合、遺言で譲ることができます。 |
家業の後継者を指定したい場合 | 家業を継続させたい場合は後継者を指定し、その人が経営の基盤となる土地や店舗、工場、農地、同族会社の株式などを相続できるようにしておきましょう。 |
遺言として法的に有効な内容事項とは
遺言として法的効力のある主な内容事項は大きく分けて以下の3つです。
- ①身分に関すること…婚外子の認知や未成年者の後見人の推定・後見監督人の指定など
- ②財産の処分に関すること…遺贈や寄付・信託など財産の処分について
- ③相続に関すること…相続分の指定とその委託・遺産分割方法の指定とその委託・遺産分割の禁止・相続人相互の担保責任の指定・特別受益の持戻しの免除・相続人の廃除や廃除の取り消し・遺言執行者の指定とその委託・祭祀承継者の指定など。
なお、死後に配偶者との婚姻関係を解消する・養子との養子縁組を解消するといった内容は認められません。
連盟による遺言も禁止されているので注意しましょう。
法的に遺言できることの内容 | ||
身分に関すること | 子の認知 | 婚姻関係に無い相手の子との親子関係を認めることができます。胎児に対しても認知できます。 |
未成年者の後見人・後見監督人の指定 | 推定相続人の親権者のいない未成年がいる場合は後見人・後見監督人の指定ができます。 | |
財産の処分に関すること | 財産の遺贈 | 財産を相続人以外の人に贈与することができます。 |
財産の寄附 | 財産を寄付・財団法人の設立などができます。 | |
信託の設定 | 財産を指定した信託銀行に預けて管理・運用してもらえます。 | |
相続に関すること | 相続分の指定とその委託 | 法定相続分とは異なる各相続人の相続分を指定することができます。第三者に分割方法の指定を委託することも可能です。 |
遺産分割方法の指定とその委託 | 財産をどのように分けるか具合的な遺産分割の方法を指定することができます。また、第三者に分割方法の指定を委託することもできます。 | |
遺産分割の禁止 | 相続開始から5年以内であれば、財産の分割を禁止できます。 | |
相続人相互の担保責任の指定 | 相続後の相続人同士による担保責任を減らしたり増やしたりできます。 | |
特別受益の持戻しの免除 | 相続分から差し引かれる生前贈与や遺贈などによる特別受益分を考慮に入れないよう免除できます。 |
遺言には自分の気持ちを記すこともできる
遺言として法的効力のある内容以外を書いても構いません。
むしろ、相続の指定に関する理由を書いたり、家族への思いを記したりすることも大切です。
遺言書を書くにあたっての気持ちや、相続についての考え方を記しておくことで、相続トラブルを未然に防ぐ意味があるからです。
プラスとマイナスの財産を含めた財産目録を作成
遺産相続について遺言しておく場合は、誰にどの財産を相続させるかを検討するためにも財産目録を作成しましょう。
財産目録は遺言を書くときや、相続時に必要なるからです。
相続財産にはプラスの財産だけでなく、借金などマイナスの財産も含まれるので、プラスの財産とマイナスの財産の両方を記載しましょう。
- プラスの財産・・・預貯金・株式などの有価証券・不動産・自分が受取人になっている生命保険・ゴルフ会員権・借地権・借家権・自動車・家具・書画・骨董・貴金属など
- マイナスの財産・・・住宅ローンや借金などの債務
目録には不動産は登記識別情報通知や登記事項証明書などを確認して、登記されたとおりに記載します。
預貯金は預入先・口座番号・残高などを特定できるように記載します。
財産の種類によっては評価額も記載します。たとえば不動産であれば、取得金額と相続財産としての評価額、相続税計算のうえでの評価額は路線価を基準にします。
相続財産としての評価額は実際に売買される価格で考えたほうがいいでしょう。
不動産や株式などの価格に変動のあるものは、定期的な評価額の見直しが必要です。
プラスの財産 | 財産目録作成メモ | ||
財産の種類 | 必要事項 | ||
不動産 | 土地(自宅敷地・事業用地・貸宅地・農地・山林など)建物(自宅・貸家・店舗・工場など) | 地番(登記事項証明書記載)・面積(登記事項証明書記載)・評価額(路線価・実勢価格) | |
金銭 | 現金・預貯金 | 金額・金融機関・支店名・預貯金の種類・口座番号 | |
有価証券 | 株式・国債・公社債・証券投資信託・貸付投資信託・手形・小切手など | 証券会社・銀行など取扱期間・株式の数量・証券番号 | |
保険(受取人が遺言者のもの) | 生命保険・損害保険・共済など | 契約先・証券番号・死亡保険金額 | |
権利関係 | 借地権・借家権・ゴルフ会員権・著作権・特許権・電話加入権など | 契約先・契約書・金額など | |
物品 | 自動車・書画・骨董・宝石・貴金属・家具・家電製品など | 契約先・契約書・金額など | |
その他 | 墓地・墓石・仏壇 | 契約先・墓地管理料など | |
マイナスの財産 | 各種ローン・借金など | 契約先・金額など |
- 路線価とは?
- 道路(不特定多数の人が通行できる公道)に面した土地の価格のこと。路線価には「相続税路線価」と「固定資産税路線価」 の2つがあり、それぞれ対応する税金の計算をするときに使うものです。路線価は国税庁の専用ページで、自分で調べることができます。
誰にどの財産を相続させるかを検討する
財産をリストアップしたら、残された家族の生活を考えつつ、誰にどの財産を相続させるかを検討しましょう。
遺産分割の対象にはなりませんが、墓地、墓石、仏壇などの祭祀財産も、誰に継承させるか遺言することをおすすめします。
遺言作成にあたって分からないことがあれば、相続税の心配は税理士に、遺言内容に不安があれば弁護士にと、各専門家に相談しましょう。
- 自分の葬儀についての遺言
- 自分の葬儀について遺言しておいても法的に有効ではありません。
- 遺言書が死後に家庭裁判所での検認を必要とする場合、遺言の内容を確認するのは葬儀の後になるので遺言者の意思が伝わらないため、葬儀についての希望は遺言書とは別に記し、死後すぐに家族に見つかるようにしましょう。
相続人の廃除の申し立てをする場合
遺留分を有する推定相続人が被相続人を虐待・侮辱を与えたりした場合、また、推定相続人にその他の著しい非行があった場合は被相続人は推定相続人の相続権を奪うことができます。これが相続人の廃除です。
相続人の廃除は、遺言者の生存中に家庭裁判所に「推定相続人廃除」の申し立てをして、調停または審判を受けます。
廃除理由によっては、相続人の廃除が認められないこともあります。
相続人の廃除と廃除の取り消しは、遺言によって行うことも可能です。取り消しの場合は、被相続人の死後、遺言執行者が家庭裁判所に申し立てをします。
遺言執行者の選任は必要なのか?
遺言書を作成する際は、遺言執行者の選任の必要性について考えることもあるでしょう。
遺言の内容によっては、遺言執行者の選任が必要な場合(相続人の廃除や認知をする場合など)と、そうでない場合があります。
遺言執行者の選任が必要でない場合でも、遺言書に指定しておけば任意の遺言執行者を選任でき、遺族の負担も軽減されるので、遺言執行者の選任は前向きに検討しましょう。
遺言書の必要性と作成の準備
- 遺言を残すことで相続人間のトラブルを防止につながる
- 法的効力を有する遺言の内容事項は限られている
- 遺言作成の事前準備として財産目録を作成し、誰にどの財産を相続させるか検討する
- 相続税について心配であれば税理士や弁護士などの専門家に相談する
- 推定相続人の中に廃除したい相続人がいる場合は、家庭裁判所に申し立てる
以上、遺言書の必要性と作成の準備について解説しました。
※相続税のご相談については、提携している税理士を紹介いたします。