相続財産の中には、故人(被相続人)が銀行に預けていた預貯金口座も含まれます。口座名義人が亡くなると預貯金口座は凍結されるので、凍結を解除するためには遺産分割協議を経て、名義変更などの相続手続きをする必要があります。
この記事では、相続開始と銀行預金について、日野市・八王子市・立川市で相続手続き・遺言作成サポートをしている行政書士法人ストレートが解説します。
目次
金銭債権も遺産分割の対象
相続財産の中には、故人(被相続人)が生前から銀行などに預けていた預貯金口座の金銭も含まれます。
預貯金口座について、都市銀行などは預金口座と呼び、ゆうちょ銀行などは貯金口座と呼びます。
預貯金口座からの金銭の引き出しは、法律的には「預貯金払戻請求権」(預貯金債権)の行使と扱われるため、預貯金債権は金銭債権(金銭の支払いを受ける権利のこと)にあたります。
金銭債権には、不動産などとは異なる性質があります。
土地などの不動産、お札や硬貨などの現金は物理的に分割できないので、相続が発生した時点で、相続人全員が共同して所有するという暫定的な状態を認めたうえで、最終的にどの相続人に不動産を帰属させるのかを、遺産分割協議などを経て決定します。
これに対し、金銭債権は物理的に分割ができます。
たとえば、200万円の貸金債権(借金の返済を求める権利のこと)は、100万円の貸金債権2つに分割することが可能です。
この点から、金銭債権は遺産分割の対象に含まれず、相続発生と同時に各相続人の相続分に応じて分割されるものと扱われ、過去の最高裁判例では各相続人の相続分に応じて当然に分割されるとしていました。
しかし、私たちの日常生活において、預貯金債権は現金とほぼ同じように扱われています。
また、預貯金債権を遺産分割の対象に含めることで、相続財産の分割に際して1円単位での細かい調整が可能になります。
そのため、現在の最高裁判例は現金と同じく、預貯金債権を遺産分割の対象に含めるというように立場を変更しています。
銀行口座の凍結は遺産分割が終わるまで
現在は預貯金債権が遺産分割の対象に含まれるので、遺産分割が終了するまでの間、特定の相続人が被相続人の預貯金債権を勝手に引き出すことは、原則として認められません。
なぜなら、預貯金債権の引き出しに現れた相続人が遺産分割協議などを経て、最終的にその預貯金債権を取得するという保証がないからです。
そのため、銀行などは遺産分割が終了し、最終的に預貯金債権の帰属先が決定するまで、預貯金口座を凍結するという対応をとることが認められています。
もっとも、最高裁判例の変更によって預貯金債権を遺産分割の対象に含めるという扱いになる前から、銀行などは被相続人の預貯金口座について、被相続人の名義のままでは引き出しに応じず、これを引き継ぐ人が確定するまで口座を凍結するとの運用をしていました。
相続発生時に預貯金債権における債権者(相続人や受遺者)が複数人になると、権利関係が複雑化するおそれがあるためです。
このような運用にお墨付きを与えたのが、変更後の最高裁判例だといえるでしょう。
口座凍結を解除するためには?
相続人が被相続人の銀行などの預貯金口座凍結を解除するには、遺産分割を終了させなくてはなりません。
遺産分割が終了した後は、特定の相続人が預貯金債権を確定的に取得することから、銀行などが複雑な権利関係の判断に巻き込まれるおそれがなくなるためです。
ただし、すべての相続財産についての遺産分割が終了する前に、相続人が預貯金債権を引き出す方法もあります。
具体的には、一部分割の方法によって、銀行などに対する預貯金債権の遺産分割を先に終了させておくことで、すべての相続財産に関する遺産分割の終了前に預貯金口座の凍結を解除することが可能です。
預貯金の仮払いを認める制度
遺産分割が終了するまで、被相続人の預貯金口座が凍結されてしまうことで相続人に負担が生じるケースがあります。
たとえば、相続人が被相続人の預貯金債権を使って、被相続人の葬儀費用などに充てたいと考えている場合、ある程度時間が必要になる遺産分割が終わるまで常に預貯金債権の払い戻しを受けられないとすると、葬儀などをする上で障害になります。
相続財産には、被相続人の死亡後の相続人の生活保障という役割があるため、相続人が生活費などで切迫した事情があるときにも預貯金債権を全く使用できないとなると、生活保障という役割に反する結果となってしまいます。
そこで、2018年の相続法改正に伴って、相続人が相続債務(被相続人の生前に第三者に負っていた債務のこと)の返済や、相続人の生活費などに充てるため、遺産分割の対象である預貯金債権を使用する急迫の必要が生じた場合は、家庭裁判所に保全処分を求めることで、相続人は預貯金債権の仮払いを受けることができます。
これを預貯金の仮分割の仮処分といいます。
なお、仮処分の申し立てができるのは、家庭裁判所に遺産分割の審判や調停を申し立てている場合に限られます。
さらに、2018年の相続法改正によって、家庭裁判所に遺産分割の審判や調停を申し立てていなくても、預貯金債権の仮払いが認められる場合もあります。
つまり、被相続人の葬儀や相続人の生活費などに充てる必要が場合、相続開始時の預貯金債権額の3分の1に、その相続人の法定相続分を掛けた金額のうち、150万円を上限として、銀行などへ直に預貯金債権の仮払いを求めることができます。
銀行預金の名義変更と必要書類について
預貯金債権に関する遺産分割協議が成立した場合、相続人は被相続人名義になっている預貯金口座について、預貯金債権を取得した相続人の名義に変更する必要があります。
この相続人は、銀行などが指定する名義変更依頼書に被相続人や相続人の戸籍謄本・遺産分割協議書など以下のような必要書類を添付して、名義変更を請求します。
- ①銀行所定の用紙(署名・実印を押印)
- ②預金通帳、キャッシュカード
- ③被相続人の戸籍謄本・除籍謄本
- ④相続人全員の戸籍謄本と印鑑証明
- ⑤事案によっては遺産分割協議書や委任状など
相続開始と銀行預金に関するまとめ
- 金銭債権も遺産分割の対象となる
- 遺産分割が終了するまで預金口座は凍結される
- 口座の凍結によって相続人の生活に負担が掛かる場合、預貯金の仮払いを認める制度によって預貯金の仮払いを受けられる
- 遺産分割が終了したら、被相続人の銀行預金の名義を相続人の名義に変更する必要がある
以上、相続開始と銀行預金について解説しました。