農地を所有する人が亡くなり、相続人がその農地を引き継いで営農を続ける場合、一定の手続きをすることで農地へ課税される相続税の納税猶予を受けられる制度があります。
この記事では、農地の相続税の納税猶予制度について、日野市・八王子市・立川市で相続手続き・遺言作成サポートをしている行政書士法人ストレートが解説します。
※相続税のご相談については、提携している税理士を紹介いたします。
目次
農地の納税猶予とは?
農地を所有または耕作権を所有し、営農を続けている人が亡くなると、その農地または耕作権の相続税評価額に相続税が課税されます。(金融資産や他の土地、建物などの財産と合計して課税)
しかし、農地を相続した者が営農を継続することを条件に、農地または耕作権の相続税評価額に対応する相続税額については納税猶予制度が適用できます。
この納税猶予制度を利用すると、本来の相続税額から農業投資価格(農業の目的のみに利用される場合の土地の価格として国税局長が地域ごとに定めた価格)による相続税額を引いた額の納税が猶予されます。
- ◎農地の納税猶予の計算例◎
- 本来の相続税額-農業投資価格=納税猶予額
ちなみに、営農を継続=自らが農作業をしなければならない、ということではありません。
農作業を親族が行ったり外注したりする場合や、農地を貸付する場合でも農業経営をしていることになります。
高齢で農作業ができなくなったら納税猶予を受けられないわけではないのです。
農地の納税猶予の適用要件について
農地の納税猶予の適用を受けるために被相続人・相続人が満たすべき要件は以下のとおりです。
被相続人の要件
- ①死亡日まで農業を営んでいた人
- ②生前一括贈与をした人
- ③死亡日まで特定貸付けまたは認定とし農地貸付などを行っていた人
相続人の要件
- ①相続税の申告期限までに農業経営を開始し、その後継続して農業を行う人
- ②生前一括贈与を受けた人
- ③相続税の申告期限までに特定貸付または認定の内貸付等を行っていた人
相続税の申告期限までに手続きをする
相続税の農地の納税猶予の適用を受けるためには、死亡日の翌日から10ケ月後の相続税の申告期限までに、農業委員会から交付される適格者証明書を添付し、適用を受ける農地の担保提供とともに納税猶予の適用を受ける旨の申告手続きが必要です。
相続人による遺産分割協議または遺言書で農地を取得した者が、その農地を引き継いで農業に従事することを農業委員会に届け出ると、後日「相続税の納税猶予に関する適格者証明書」が交付されます。
適格者証明書は交付まで2~3か月かかることもあるので、申告期限に遅れないよう注意する必要があります。
手続きの流れをまとめると以下のとおりになります。
- ①各市区町村農業委員会で適格者証明書を発行してもらう
- ②相続税の申告期限(10ケ月以内)までに申請するとともに納税猶予税額および利子税の担保を提供する
- ③納税猶予に関する適格者証明書が交付される
遺言書がない場合など、相続人の間で遺産分割のトラブルになり、農地に関する遺産分割協議書への同意の印鑑がなかなか揃わないといった事態も起こり得ます。
余裕をもって適格者証明の交付申請をするためには、遺産分割協議書への相続人全員の合意と署名押印を早めに集めましょう。
三大都市圏特定市の市街化区域は納税猶予が適用されない
相続税の納税猶予が適用される土地は、原則としてすべての農地・採草放牧地・準農地です。
例外として、首都圏・中部圏・近畿圏の三大都市圏の特定市(平成3年1月1日時点の特定市の区域)の市街化区域においては、生産緑地および特定生産緑地以外の農地で納税猶予の適用を受けることができません。
それ以外の農地では、納税猶予の適用を受けられるほか、決められた営農期間を経過することで猶予されている相続税が免除になります。
農地の納税猶予額の免除要件
猶予されている納税が免除となる営農期間も地域別に定められています。
三大都市圏の特定市以外の全国の市街化区域では、農業相続人が営農を継続すれば、相続税の申告期限から20年経過時に納税猶予税額が全額免除されます。
その後は農業を廃止しようと売却しようと相続税の納税義務はなくなります。なお、生産緑地の指定を受けた農地については、20年免除ではなく終身営農により免除となっています。
なお、平成30年度税制改正により、生産緑地および市街化区域以外の都市計画区域・都市計画区域外の農地については貸付を行った場合にも納税猶予を継続できるようになっています。
納税猶予を受けていた農業相続人が死亡した場合は、営農期間に関わらず死亡者が受けていた猶予税額は免除されます。
次の農業相続人が引き続き農業経営を続ければ、その志望者に係る相続税の農地の納税猶予を新たに受けることができます。
また、農業後継者に生前一括贈与して納税猶予された場合にも納税免除となります。
納税猶予制度は営農を続けるにあたって利用したい制度です。相続人間で合意に至らないことも考えられるので、農業後継者に農地を相続させる遺言書を作成するといいでしょう。
農地の納税猶予が打ち切られるケースとは
以下のいずれかに該当した場合、納税猶予が打ち切られ、相続税納税猶予額と経過期間の利子税を一括して納税することになります。
- 特例農地等の譲渡・贈与・転用・耕作放棄があった場合
- 相続人が営農をやめた場合
- 担保価値が減少したことなどにより、増担保または担保の変更を求められた場合で求めに応じなかったとき
- 都市営農農地等について生産緑地法の規定による買取りの申出または指定の解除があった場合や都市計画の変更等により特例農地等が特定市街化区域農地等に該当することになった場合
- 特例の適用を受けている準農地について、申告期限後10年を経過する日まで農業のように供していない場合
農地の相続税の納税猶予制度に関するまとめ
- 農地の相続税の納税猶予制度は、農地を相続した者が営農を継続することを条件に適用される
- 納税猶予の適用を受けるためには、死亡日の翌日から10ケ月後の相続税の申告期限までに手続きをしなければならない
- 三大都市圏の特定市の市街化区域は例外的に納税猶予の適用を受けることができない
- 猶予されている納税は市街化区域なら20年経過時に全額免除、市街化区域外なら終身営農が求められる
以上、農地の相続税の納税猶予制度について解説しました。