認知した子が実の子である場合は認知を取り消すことはできません。しかし、認知した子が実の子でない場合は認知を取り消すことができます。
この記事では、認知の取り消しについて、日野市・八王子市・立川市で相続手続き・遺言作成サポートをしている行政書士法人ストレートが解説します。
目次
誰が認知無効の調停を申し立てられるのか?
民法786条に基づく認知無効の申立ては、特殊調停事項です。
認知無効の調停を申し立てることができるのは、「子、その他の利害関係人」です。
- 利害関係人とは
- 真実に反する認知があることで法律上利害関係を有するもののこと。
- 認知によって相続権を害されるもの、認知者の三親等内の血族・認知者の妻・子の実父母・子の直系卑属などです。
子の認知をした本人からの認知の無効の訴えを認めない判例もありますが、無効の主張を認める裁判例も多くなっています。
最近、最高裁でも父子に血縁関係がないことが明らかであれば、認知者本人が認知を取り消す主張ができるとの判決が出されています。
作成書類 | 認知無効の調停申立書 |
添付書類 |
・申立人および相手方の戸籍謄本(戸籍全部事項証明書) ・認知届書の記載事項証明書 ※裁判所によって身分関係についての資料・手続の円滑な進行を図るために必要な資料の提出を求められる場合も |
申立人 |
子・認知者その他の利害関係人。判例に現れた利害関係人は、子の母・認知者の妻妹父母・認知によって相続権を害された者、認知しようとする者、その他学説では子の直系卑属認知者の三親等内の血族も含めています。 |
申立先 |
相手方の住所地を管轄する家庭裁判所または当事者が合意で定める家庭裁判所 なお、国際裁判管轄については、相手方の住所等が日本国内にあるときや、当事者双方が日本国籍を有するときは日本の裁判所に裁判管轄があります。 |
申立費用 | 収入印紙1,200円・予納郵便切手 |
認知の無効原因と対象について
以下のような原因がある場合、認知が無効になります。
- 父(認知者)と子(被認知者)の間に生物学上の父子関係が存在しない
- 認知者の意思によらず認知届が出された
- 認知時に、認知者に認知能力または意思能力がなかったこと
認知無効の対象になるのは、任意で認知した場合だけです。
裁判認知(判決または審判による認知)が真実に反する場合は、再審の手続が必要です。
認知無効の審判と効力
調停手続で当事者双方に認知無効の合意が成立し、その無効原因について争いがなければ、家庭裁判所は事実調査をします。
そして、認知無効の合意を認めるときは認知無効の審判を行います。
認知が無効であることについて合意が成立しない場合は、認知無効の訴訟を提起することになります。
認知無効の審判が確定したときは、認知は遡及的(過去にさかのぼること)に効力を失います。
認知者と被認知者との間の父子関係の不存在が確定すれば、その効力は第三者にも効力を有します。
認知無効請求の訴状の作成に必要な書類は、以下のとおりです。
作成書類 | 訴状(認知無効請求の場合) |
添付書類 |
・認知者の戸籍謄本 ・被認知者の戸籍謄本 ・認知届の記載事項証明書 ・訴訟委任状 (その他各裁判所の定めによる) |
当事者 |
〔原告〕子・認知者その他の利害関係人 〔被告〕原告が子の場合は認知者、原告が認知者の場合は子、被告となるものが死亡している場合は検察官 第三者が原告となる場合は子および認知者が共同被告になるが、その一方が死亡しているときは、生存者のみが被告となり、被告とすべき者が全員死亡しているときは検察官を被告とする |
提起先 |
原告または被告の所在地の家庭裁判所 調停事件が係属していた家庭裁判所の自庁処理 |
申立費用 |
訴訟物の価額は被財産的請求であるから160万円、ちょう用印紙額は13,000円、予納郵便切手(各裁判所の定めるところによる) |
認知無効請求と訴えの性質について
認知によって生じた親子関係を否定するには、認知無効の裁判によらなければならず、親子関係不存在確認の裁判によることはできません。
ところで、認知無効の訴えの性質については、無効が確定してからはじめて遡及的に無効になるとする形成訴訟説をとる判例が多いですが、下級審では確認訴訟としたものもあります。
認知の無効が当然無効(※確認訴訟説)であるか、それとも認知の無効を宣言する判決が確定してはじめて遡及的に無効となる形成無効(※形成訴訟説)か、学説では大きな論点になっています。
- ※形式訴訟・・・一定の法律関係の変更、新たな権利の発生を判決によって求める訴訟のこと
- ※確認訴訟・・・特定の権利や法律関係存在または不存在について争いがあるとき、その確認を求める訴えのこと
未成年でも認知無効を訴えられる
当事者が未成年者であっても意思能力があれば、単独で訴訟行為をすることができます。
子の意思能力の有無を問わず、親権を行う母(利害関係人)が法定代理できます。
子の認知無効の訴えの国際裁判管轄権について
日本の裁判所が管轄権を有するのは、以下のいずれかの場合です。
- ①身分関係の当事者の一方に対する訴えであって、当事者の住所(住所がない場合
または住所が知れない場合には、居所)が日本国内にあるとき - ②身分関係の当事者の双方に対する訴えであって、その一方または双方の住所(住
所がない場合または住所が知れない場合には、居所)が日本国内にあるとき - ③身分関係の当事者の一方からの訴えであって、他の一方がその死亡の時に日本国
内に住所を有していたとき - ④身分関係の当事者の双方が死亡し、その一方または双方がその死亡の時に日本国
内に住所を有していたとき - ⑤身分関係の当事者の双方が日本の国籍を有するとき(その一方または双方がその
死亡の時に日本の国籍を有していたときを含む) - ⑥日本国内に住所がある身分関係の当事者の一方からの訴えであって、身分関係の
当事者が最後の共通の住所を日本国内に有していたとき - ⑦日本国内に住所がある身分関係の当事者の一方からの訴えであって、他の一方が
行方不明であるとき、他の一方の住所がある国においてされた訴えに係る身分関係
と同一の身分関係についての訴えに係る確定した判決が日本国で効力を有しないと
きその他の日本の裁判所が審理および裁判をすることが当事者間の衡平を図り、ま
たは適正かつ迅速な審理の実現を確保することとなる特別の事情があると認められ
るとき
認知の取り消しに関するまとめ
- 認知が真実に反し、認知者と被認知者の間に血縁関係がない場合には、民法786条
に基づく認知無効の調停を申し立てる - 調停で合意ができなかった場合は認知無効請求の訴訟を提起する
以上、認知の取り消しについて解説しました。