経営者としては、事業の後継者となる子に自社株式を集中して相続させたいところです。しかし、配偶者がいる場合は円滑に事業承継を進めることが難しい場合もあります。
事業承継をスムーズに進めるためにも、誰にどの財産をどれだけ遺すか、生前から準備・対策する必要があるでしょう。
この記事では、民法改正後の配偶者の特別受益の持戻し免除と事業承継対策の関係について、日野市・八王子市・立川市で相続手続き・遺言作成サポートをしている行政書士法人ストレートが解説します。
目次
後継者に自社株式の相続分を集中させたい場合の懸念とは
たとえば、経営者が死亡して相続が開始したとし、配偶者A・後継者B(子)が相続財産を継ぐとしましょう。
経営者としては、会社の経営権の源泉となる自社株式を後継者B(子)に集中して相続させたいところです。
ところが、遺言がない場合は法定相続分として配偶者Aに相続財産の1/2を取得させなければなりません。
こうなると、後継者Bに自社株を承継させ、安定した経営をするための資金的な財産を遺すことが難しくなります。
また、遺言によって十分な資産を後継者Bに相続させたとしても、配偶者Aの遺留分を侵害する場合があります。
遺留分の侵害があると、後継者Bは遺留分の侵害額を金銭で支払うことになってしまいます。
配偶者Aと後継者Bの関係が良好でない限り、後継者の事業承継には不安が拭えかねません。
そこで、配偶者Aに自宅の土地建物を遺贈または生前贈与しておくことで、後継者に自社株式を集中して相続させやすくするという方法があります。
しかし、この方法では改正民法の施行によって注意すべき点があります。
順を追って説明していきましょう。
改正民法によって配偶者は特別受益を持戻さなくてもいいことに
遺産分割においては、経営者(被相続人)が、配偶者Aに自宅の土地建物を遺贈または生前贈与すると、配偶者Aが取得した自宅の土地建物は特別受益として扱われます。
特別受益の持戻しとは、相続分の算定の際に、相続財産に特別受益にあたる財産の価値を戻して(みなし相続財産)計算するというものです。
配偶者Aに自宅の土地建物を生前贈与した場合の、配偶者Aと後継者Bへの相続分の計算例は以下のとおりです。
- 自宅の土地建物を生前贈与した場合の相続分計算例
- 配偶者Aの相続分
- (1億円+5000万円)×1/2-5000万円=2500万円
- 後継者Bの相続分
- (1億円+5000万円)×1/2=7500万円
相続開始時の財産=1億円
以上の計算例のように、配偶者Aに対して自宅の土地建物の遺贈や生前贈与をしておくことで、後継者が自社株等の財産を相続しやすくなるというわけです。
ただし、令和元年7月1日から改正民法が施行されました。
施行日以後、婚姻期間が20年以上の夫婦は、居住用の土地・建物の遺贈・贈与が行われた場合、原則としてその価額を相続財産に持ち戻さなくてもいいことになりました。(これを持戻し免除の意思表示の推定といいます)
要するに、配偶者Aの相続分が実質的に増加したということです。
配偶者へ自宅の土地建物の贈与・遺贈を行う場合の対策とは
持戻し免除の意思表示は法律上の推定なので、法律上のものであっても「推定」に過ぎません。
推定を覆す事実があれば持戻し免除はされず、配偶者Aが遺贈または贈与された自宅の土地建物は特別受益として扱われ、後継者はより多くの財産を相続することができるでしょう。
ところで、もし経営者(被相続人)が自身の死後、配偶者Aの居住を考慮して自宅の土地建物を遺贈または贈与した上で事業承継を進める場合はどうすればいいのでしょうか?
たとえば、遺言等で配偶者Aヘの自宅の土地建物の遺贈または贈与について、特別受益として持戻す旨を記載しておけば、持戻し免除の意思表示の推定を覆すことができます。
遺言等を準備して、あらかじめ対策しておきましょう。
民法改正後の配偶者の特別受益の持戻し免除と事業承継対策の関係まとめ
- ①後継者に集中して自社株式を承継させるには、遺言があっても配偶者の遺留分侵害となる場合がある
- ②配偶者に自宅の土地建物を遺贈または贈与しておくことで、後継者に自社株式を集中して相続させやすくできる
- ③遺贈または贈与をする際は改正民法による持戻し免除の意思表示の推定を覆せるよう遺言等で特別受益として持戻す旨を記載しておく
以上、民法改正後の配偶者の特別受益の持戻し免除と事業承継対策の関係について解説しました。