相続をしない場合は、相続分の譲渡をすることができます。
相続分の譲渡は、共同相続人のみならず第三者へ譲ることも可能です。相続に巻き込まれたくないという方は、相続分の譲渡を検討してみるといいでしょう。
また、ここでは相続分を取り戻したい場合の「相続分取戻権」の行使についても説明します。
この記事では、相続分の譲渡と取戻権行使について、日野市・八王子市・立川市で相続手続き・遺言作成サポートをしている行政書士法人ストレートが解説します。
目次
相続分の譲渡と相続分譲渡証書の作成
相続分の譲渡とは、法定相続分を他の相続人や第三者に譲ることをいいます。
相続分の譲渡は認められていますが、譲渡の方法に関しては定められていません。
つまり、譲渡の方法はいかなる方式でも、口頭でも構わないということです。
また、有償譲渡・無償譲渡を問いません。
しかし、後のトラブルを防止するためにも、譲渡人・譲受人の間で合意の内容を明確にして「相続分譲渡証書」を作成することが望ましいでしょう。
さらに、「相続分譲渡通知書」を作成し、他の相続人に対して通知することをおすすめします。
相続分の譲渡は相続人間で遺産分割をする前に行う必要があります。
相続分譲渡のデメリット=負債も引き継ぐ
「相続分」の意味については、
- ①包括的持分説
- ②総額的持分説
- ③共有的持分説
の3つがありますが、相続分譲渡でいうところの通説は①包括的持分説です。
相続分の譲渡は、プラスの財産のみならずマイナスの財産をも引き継ぎます。
譲渡人は相続分の譲渡によって相続権を失いますが、相続人としての権利が喪失されたわけではなく、負債の支払い義務を免れるわけではありません。
相続債権者から返済の請求があれば、支払う必要があります。
また、第三者が遺産分割協議に参加することでトラブルにつながる可能性も高まります。
なお、詳細は後述していますが、共同相続人以外の第三者に相続分が譲渡されたときには、共同相続人の1人が費用を償還(償い返すこと)することで、相続分を取り戻すことが可能です。
相続分譲渡のメリット
相続分譲渡は相続放棄と異なり、家庭裁判所の関与は必要ないので手続きの手間や費用がかかりません。
また、相続分の譲渡であれば、親族のみならず第三者にも相続分を譲渡できるので、譲りたい人がいる場合には有効な手段だと言えるでしょう。
譲受人は、譲渡人が有していた法律上の地位を取得するため、遺産分割を請求できます。
譲受人は遺産分割の協議・調停・審判に参加でき、また、他の相続人は譲受人を参加させなければなりません。
相続分譲渡通知書を送ることでトラブルを防止する
相続分の譲渡を行う場合は、他の共同相続人全員へ「相続分譲渡通知書」を送りましょう。
相続分譲渡通知書を送るときは、郵便局と差出人の手元に日付入りの控えが残る配達証明付き内容証明郵便を利用しましょう。
譲渡された相続分の取戻しをしたいときに、相続分取戻権行使の機会を確実に与えるという意味でも、相続分譲渡通知書を送ることをおすすめします。
譲渡された相続分を取り戻す「相続分取戻権」とは?
共同相続人のうち1人が自分の相続分を第三者に譲渡した場合、他の相続人がその価格・費用を償還(償い返すこと)し、その相続分を譲り受けることができます。
これを「相続分の取戻し」といいます。
相続分の取戻しは、遺産分割に第三者が介入することでトラブルが発生することを防止し、遺産分割が円滑に行われるためにある制度です。
相続分取戻権は形成権なので、譲受人に対する一方的な意思表示(譲渡人の承認は不要)でよいとされています。
相続分取戻権の行使と方法
相続分取戻権と対象者
取戻権者は相続分を譲渡した相続人以外の共同相続人で、そのうちの1人が単独で行使することができます。
取戻しの対象は、譲受人が承諾しない限り、譲渡された相続分全部です。
費用の償還について
取戻しには相続分の価格と譲渡に要した費用を償還する必要があります。
相続分の価格については、相続財産の対象相続分の価格で取戻権行使時における相続分の時価とする考えが通説です。
取戻権が行使されると、譲受人は相続分を失います。
相続分取戻権行使の期間
相続分取戻権は1か月以内の行使されなくてはなりません。
この期間を過ぎると、相続分の取戻しは不可能となります。
ただし、この起算点については、譲渡時説と譲渡通知時説がありますが、多数説は譲渡時説とされています。
第三者への相続分譲渡と相続分取戻権のまとめ
- 相続分の譲渡の方法に決まりはないが、トラブル防止のため譲渡人と譲受人の間で相続分譲渡契約を締結し、相続分譲渡証書を作成するといい
- 他の共同相続人に対し、相続分譲渡通知をし、譲受人と他の相続人との間で遺産分割協議を行う
- 譲受人に対して相続分取戻権行使の通知を行い、譲渡し人の相続分の価格・費用を償還することで相続分を譲り受けることができる
- 取戻権は1か月以内に行使されなくてはならない
以上、第三者への相続分譲渡と相続分取戻権について解説しました。