相続の開始により、被相続人が有していた財産関係が相続人に承継されることになります。
しかし例外的に、被相続人の一身に専属したもの(帰属上の一身専属権)は相続財産に含まれません。
この「一身専属権」とは、どのような権利のことなのでしょうか?
この記事では、
- 一身専属権とは?
- 一身専属権の例一覧
- 一身専属権の有無と判例紹介
について、日野市・八王子市・立川市で相続手続き・遺言作成サポートをしている行政書士法人ストレートが解説します。
目次
一身専属権とは?
一身専属権の意味と相続について、また、一身専属権の例を紹介していきましょう。
一身専属権は相続の対象とならない
民法896条は、
- 「相続人は、相続開始の時から、被相続人の財産に属した一切の権利義務を承継する。ただし、被相続人の一身に専属したものは、この限りではない。」
と定めています。
この「一身専属権」とは、特定の者のみ(被相続人のみ)に帰属する権利のことを言い、他の者(相続人)に移転しない性質を持っています。
つまり、その権利の性質上、一身専属権は相続の対象となりません。
一身専属権の例一覧
明文の規定があるもの
次のような権利には、帰属上の一身専属性を定めた明文の規定があります。
- 代理権
- 使用貸借における借主の地位(対して、貸借権は相続可能)
- 雇用契約上の地位
- 組合員の地位
- 配偶者居住権
- 配偶者短期居住権
規定はないが一身専属権とされるもの
明文の規定はないものの、帰属上の一身専属権とされるものとして、次のような権利があります。
- 婚姻費用請求権
- 扶養請求権
- 生活保護法に基づく保護受給権
- 親権者の地位
- 公営住宅の使用権
ただし、一定額の給付請求権として具体化していた場合は、一身専属性が消滅し、相続が可能になります。
一身専属権の有無と判例紹介
帰属上の一身専属性があるかどうかの議論について、紹介するケースをもとに解説していきましょう。
不動産の貸借権について
- AさんはBさんから建物を貸借し、内縁の配偶者Cさんとともにこの建物に居住していました。
- Aさんは死亡しましたが、Aさんには相続人Xがいます。
- なお、内縁の配偶者Cさんは現在も建物に居住し続けています。
不動産貸借権は相続可能です。しかし、公営住宅の使用権に関しては相続性が否定されています。
- Aさんは建物を所有し、子Xと居住していました。
- Aさんが死亡し、子X・Y・Zが相続しました。
- Xは現在も建物に居住し続けていますが、遺産分割はされていません。
被相続人と同居していた相続人の居住建物の無償使用権に関して、判例の立場では、被相続人と同居していた相続人との間で、遺産分割時を終期とする使用貸借を締結していたと扱われます。
占有権の相続は発生するのか?
- 工務店を営むAさんは、Sさんが所有する甲土地を自己の所有地と信じて9年間占有、資材の置き場として使用し続けた後に死亡しました。
- 当時、商社のドバイ支店に勤務していたAさんの唯一の子であるXが退職して帰国し、Aさんが死亡した半年後に家業を継ぎました。
-
占有権は、物の事実的支配に対して与えられる権利のことですから、占有者の死亡により占有権は消滅し、一見するとその相続は発生しないように思われます。
しかし、特段の事情がない限り、判例・通説は占有権の相続を認めています。
ある物を占有していたAさんの死亡によりXが相続、その後にその物を自ら事実上の支配下に置いた場合、その物に関するXの占有には
- ①被相続人Aさんの占有を相続により承継という面
- ②X自身の占有であるという面
の二面性が存在していることになります。
-
委任者の死亡による委任契約の終了について
委任者が死亡すれば委任契約も終了します。
ただし、判例は委任者が受任者に対し、
- 入院中の諸費用
- 自己の死後の法要の施行と費用
- 入院中に世話を受けた人たちへの礼金
の支払いを依頼する委任契約は、委任者の死亡によって契約を終了させない合意をしているものとされています。
一身専属権のまとめ
- 一身専属権とは、特定の者のみが行使・享有する権利のことを言う
- 一身専属権は、他の者に移転しない性質があることから相続されない
以上、一身専属権について解説しました。