多数の共有者が不動産を共有している場合、所在等が不明になる共有者が存在するケースがありますが、所在等が不明な共有者がいると共有物のリフォームや売却ができなくなる等、管理不全となってしまいます。
このような問題に対処すべく、令和5年4月1日から施行される改正法では、所在等不明共有者の持分を他の共有者が取得・譲渡することが可能になります。
この制度の概要についてご紹介しましょう。
この記事では、所在等不明共有者がいる場合の共有物処分と改正民法について、日野市・八王子市・立川市で相続手続き・遺言作成サポートをしている行政書士法人ストレートが解説します。
目次
所在者等不明共有者がいる場合の共有物処分の問題点
不動産は所有者から複数の相続人への相続、共同での購入によって共有状態であることが少なくありません。
共有者が多いと音信不通になったり、何十年も前からの登記がそのままだったりして、現在の所有者が誰か分からなくなることがあります。
これを所在等不明共有者といいます。
共有物に対して、修繕などの保存行為は単独の共有者でも行うことができますが、賃貸化などの管理行為は共有持分権の過半数がなければできません。
また、売却やリフォームなどの変更(処分)行為は全共有者の合意がなければ行うことができません。
所在等不明共有者がいると、その不動産は売却・リフォームなどの管理・変更行為が一切できず塩漬け状態となってしまいます。
所在不明とはどういう状態のことか?
- 登記簿および住民票、戸籍等を調査しても氏名やその所在を知ることができない時をいいます。
- 法人の場合は、登記簿上の所在地に本店や事務所がなく、代表者の所在を知ることができない時をいいます。
- 単に音信不通であるだけの場合は、所在不明ということにはなりません。
- 参考:法務省ウェブサイト「民法・不動産登記法(所有者不明土地関係)等の改正に関する中間試案」
民法改正で所在者等不明共有者の持分の取得・譲渡が可能となる
民法改正によって令和5年4月1日から、共有不動産について、他の共有者が所在等不明共有者の持分の取得・第三者への譲渡を裁判所に請求することができるようになります。
ただし、持分の取得は裁判の申立人の共有者のみが取得することになるので、共有者の複数人が取得を希望する場合は申立人も複数となります。
なお、相続財産の不動産のうち、遺産分割等が未了で相続人の中に所在等不明共有者がいる場合は、相続開始から10年経過後に限り、持分取得等を裁判所に請求することで所在等不明共有者との共有関係を解消できるようになります。
第262条の2 第1項
- (所在等不明共有者の持分の取得)第262条の2
- 第1項 不動産が数人の共有に属する場合において、共有者が他の共有者を知ることができず、又はその所在を知ることができないときは、裁判所は、共有者の請求により、その共有者に、当該他の共有者(以下この条において「所在等不明共有者」という。)の持分を取得させる旨の裁判をすることができる。
- この場合において、請求をした共有者が二人以上あるときは、請求をした各共有者に、所在等不明共有者の持分を、請求をした各共有者の持分の割合で按分してそれぞれ取得させる。
- 出典:法務省ウェブサイト「民法等の一部を改正する法律案(法律案・理由)」
裁判の手続きと供託金納付の流れ
所在者等不明共有者との共有関係の解消を請求するための裁判手続きは、供託金が必要になります。
所在者等不明共有者の持分の時価相当額の金銭を、供託金として供託所に納付し、その証明書を裁判所に提出しなければなりません。
なお、供託金は所在者等不明共有者に対して持分の買取をするための代金とも言えますが、当人が金額を受け取ることはできないので、国に預けることになるわけです。
納付した供託金は、所在者等不明共有者による時価相当額請求の際に用いられることになります。
所在者等不明共有者が現れないまま供託金還付請求権の時効を迎えた場合は、納付した供託金は国庫に帰属され、納付者に返ってくるわけではない点には注意しましょう。
所在者等不明共有者の死亡が判明した場合の手続きは?
- (所在等不明共有者の持分の取得)
- 第262条の2
- 第3項 所在等不明共有者の持分が相続財産に属する場合(共同相続人間で遺産の分割をすべき場合に限る。)において、相続開始の時から10年を経過していないときは、裁判所は、第1項の裁判をすることができない。
- 出典:法務省ウェブサイト「民法等の一部を改正する法律案(法律案・理由)」
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- これは所在者等不明共有者が死亡していたことが判明した場合のことを指していますが、死亡から10年経過していないと、共有関係の解消手続きができないという意味です。
所在等不明共有者がいる場合の共有物処分と改正民法についてのまとめ
- 所在者等不明共有者がいると共有物の管理行為や処分行為ができなかったが、改正法によって所在者等不明共有者の持分の取得・譲渡を請求できるようになる
- 所在者等不明共有者の持分の取得・譲渡の請求に必要な供託金は、納付者が取り戻すことはできない
以上、所在者等不明共有者がいる場合の共有物処分と改正民法について解説しました。