特定財産承継遺言とは、従来は「相続させる旨の遺言」と呼ばれていたものです。
事業承継の際、後継者の事業承継に係る資金調達の負担を減らすべく、特定の金融機関の預貯金を相続させる旨の遺言を残す場合は特定財産承継遺言にあたります。
この特定財産承継遺言によって預貯金を取得した場合は、第三者に所有権を主張することができるよう、すぐに対抗要件を取得する必要があります。
この記事では、特定財産承継遺言による預貯金の相続対策(事業承継の際の注意点)について、日野市・八王子市・立川市で相続手続き・遺言作成サポートをしている行政書士法人ストレートが解説します。
目次
特定財産承継遺言とは何か?
特定財産承継遺言とは、特定の財産を指定した相続人に承継させる旨の遺言の事です。
これまでは「相続させる旨の遺言」と呼ばれていましたが、2019年7月1日に施行された改正民法によって、「特定財産承継遺言」との呼称に変更されました。
特定財産承継遺言の例として、「〇〇銀行〇〇支店の預金は相続人Aに相続させる」「株式会社の株式を相続人Aに、自宅の土地と建物は相続人Bに相続させる」といった遺言が挙げられます。
事業承継の後継者へ納税資金等を残すために特定の預貯金を相続させる旨の遺言も、特定財産承継遺言にあたります。
預貯金を特定財産承継遺言で取得したらすぐに対抗要件を取得すべき理由
特定財産承継遺言で預貯金を相続させたいのであれば、民法第899条の2第1項が適用され、対抗要件なしでは第三者に権利を主張できないため、対策をする必要があります。
第899条の2第1項
- (共同相続における権利の承継の対抗要件)
- 第899条の2 相続による権利の承継は、遺産の分割によるものかどうかにかかわらず、次条及び第901条の規定により算定した相続分を超える部分については、登記、登録その他の対抗要件を備えなければ、第三者に対抗することができない。
- 出典:e-Gov法令検索|民法
例えば、後継者が対策を講じる前に、他の相続人が遺産分割成立前の預貯金の仮払い制度を用いて預貯金の一部※を引き出し、特定財産承継遺言の内容を知らない第三者に支払ってしまうと、その所有権を第三者に主張することができません。
つまり、特定財産承継遺言によって預貯金を取得した場合、すぐに対抗要件を備えなくてはならないのです。
- ※預貯金額の3分の1の額に当該相続人の法定相続分を乗じた額・金融機関ごとに上限150万円
預貯金に対する対抗要件を取得するには?
預貯金の取得とは、当該預貯金を預け入れた金融機関に対する預貯金の払戻請求権の取得を言います。
原則としては、対抗要件を取得するためには相続人全員から債務者の金融機関に対し、後継者が預貯金を取得したことを通知しなければなりません。
しかし、この点については民法第899条の2第2項による例外的な規定があります。
第899条の2第2項
- 第899条の2第2項 前項の権利が債権である場合において、次条及び第901条の規定により算定した相続分を超えて当該債権を承継した共同相続人が当該債権に係る遺言の内容(遺産の分割により当該債権を承継した場合にあっては、当該債権に係る遺産の分割の内容)を明らかにして債務者にその承継の通知をしたときは、共同相続人の全員が債務者に通知をしたものとみなして、同項の規定を適用する。
- 出典:e-Gov法令検索|民法
要するに、相続人全員でなく、当該預貯金債権を取得した後継者だけで、遺言又は遺産分割の内容を金融機関に通知すれば対抗要件を取得できるということです。
この民法第899条の2の規定は、改正民法によって新設されました。
なお、遺言が改正民法の施行日前に作成されたものであった場合でも、相続開始日が施行日以後であればこの規定が適用されます。
- 本来は、特定の相続人が預貯金を取得したことを共同相続人全員が債務者に対して通知しますが、共同相続人には通知を出す義務がありません。
- 通知を出してもらえなければ債権を取得した相続人の地位は不安定なものになってしまうため、相続人が単独で対抗要件を備えることが認められています。
特定財産承継遺言と預貯金の相続対策(事業承継の際の注意点)のまとめ
- 特定財産承継遺言とは、特定の財産を指定した相続人に承継させる旨の遺言の事で、事業承継の際に後継者に預貯金を相続させる旨の遺言もこれにあたる
- 後継者が預貯金を取得したらその所有権を第三者に主張することができるよう、すぐに対抗要件を備える必要がある
- 対預貯金を取得した後継者は、民法第899条の2第2項の規定により単独で対抗要件を取得することが可能
以上、特定財産承継遺言による預貯金の相続対策(事業承継の際の注意点)について解説しました。