相続人が相続財産の全部または一部を処分した場合、全財産を相続する単純承認をしたとみなされます。
すると、債務を差し引いてプラスの財産だけ相続する限定承認や、相続放棄ができなくなります。
したがって、被相続人の財産に債務がある場合、相続財産の処分は避けるべきと言えますが、処分の目的や売却金額によっては処分行為とみなされないことがあります。
処分行為と、処分にあたらないとされる行為について説明していきましょう。
この記事では、相続財産の処分と単純承認の判断について、日野市・八王子市・立川市で相続手続き・遺言作成サポートをしている行政書士法人ストレートが解説します。
目次
相続財産の処分とはどんな行為を指すのか?
相続人が相続財産を処分すると、単純承認とみなされて相続放棄や限定承認をすることができなくなります。
どのような行為をすると、相続財産の処分をしたことになるのでしょうか?
相続財産の処分には売却・贈与・損壊・破損が含まれる
処分行為とは、財産の現状や性質等を変更、財産権の法律上の変動を生じさせる行為のことをいいます。
つまり、売却や贈与のほかに損壊・破損も含まれます。
たとえば、自動車を廃車にする、居宅を更地にするといった行為が挙げられるでしょう。
なお、相続財産を処分した場合、全財産を相続する「単純承認」の意思表示をしたとみなされます。(法定単純承認※)
単純承認とみなされると、債務を差し引いて残ったプラスの財産だけ相続する「限定承認」や、財産を相続しない「相続放棄」に変更することはできません。
被相続人の相続財産に債務がある場合、注意する必要があります。
単純承認や限定承認、相続放棄についての詳細は、こちらの記事で解説しています。
※民法第921条1号
- (法定単純承認)
- ~中略~
- 一 相続人が相続財産の全部又は一部を処分したとき。ただし、保存行為及び第602条に定める期間を超えない賃貸をすることは、この限りでない。
- ~以下省略~
- 出典:e-Gov法令検索|民法
保存行為や短期賃貸借は処分に当たらない
保存行為や短期賃貸借(民法で規定される期間内※)は、相続財産の処分にはあたりません。
保存行為には、老朽化した建物を修繕すること(腐食部分の撤去等)も含まれます。
また、生命保険金や受取人が指定されている死亡退職金は相続財産ではなく固有の財産になるので、相続財産の処分の対象になりません。
※短期賃貸借の期間
(短期賃貸借)第602条 処分の権限を有しない者が賃貸借をする場合には、次の各号に掲げる賃貸借は、それぞれ当該各号に定める期間を超えることができない。契約でこれより長い期間を定めたときであっても、その期間は、当該各号に定める期間とする。一 樹木の栽植又は伐採を目的とする山林の賃貸借 10年二 前号に掲げる賃貸借以外の土地の賃貸借 5年三 建物の賃貸借 3年四 動産の賃貸借 6箇月出典:e-Gov法令検索|民法
相続放棄を処分した目的によっては単純承認にあたらない
被相続人が多額の債務を抱えている等して相続放棄を考えている場合、単純承認とみなされる処分行為は避けるべきです。
ただし、処分の目的が故人の葬儀費用(相当な規模のもの)や墓石・仏壇の購入および生前の治療費捻出のためであれば、相続財産の処分には当たらないと判断されることが多いです。
このように、単純承認とみなすかどうかは、売却の目的や金額によって判断されます。
たとえば、相続人が兄Aと弟Bの2人で、Aは相続放棄を主張していたとしましょう。
Aは葬儀費用を支払うために、相続財産である骨董品を売却しました。
この骨董品がかなりの高額で売れた場合は単純承認とみなされ、Aは相続放棄ができなくなります。
しかし、骨董品の売却代金が常識の範囲内で、Aも葬儀費用の一部を負担しているといった場合は単純承認とはみなされません。
相続財産の処分と単純承認の判断についてまとめ
- 相続人が相続財産を処分した場合、単純承認したとみなされて相続放棄や限定承認ができなくなる
- 相続財産の処分行為とみなされるのは売却・贈与・損壊・破損など、財産の現状や性質等を変更、財産権の法律上の変動を生じさせる行為
- 保存行為や短期賃貸借は処分行為には当たらず、相続財産でない固有の財産は処分の対象外となる
- 売却の目的や金額によっては、処分行為にあたらないとされることがある
以上、相続財産の処分と単純承認の判断について解説しました。