もし、自分や配偶者の身に万が一のことが起きたらと考えた時、遺された家族の生活が心配になるのは当然のことでしょう。
そうした時に支えとなるのが遺族年金です。
遺族年金は家族が亡くなった時に遺族の生活を補助してくれる制度ですが、遺族年金には受給するための条件があります。
遺族年金を受け取ることになったら、誰が、どの遺族年金を、いくら受給できて、どのような手続きを行うのでしょうか?
また、遺族年金を受給できない場合は補償されないのでしょうか?
この記事では、遺族年金について、日野市・八王子市・立川市で相続手続き・遺言作成サポートをしている行政書士法人ストレートが解説します。
目次
遺族年金とはどのような制度か?
遺族年金とは、国民年金または厚生年金保険の被保険者または被保険者であった方が亡くなったときに、故人の所得で生計を維持していた遺族が受け取れる年金のことです。
遺族年金には、
- 国民年金の「遺族基礎年金」
- 厚生年金の「遺族厚生年金」
があります。
それぞれの受給要件と、被保険者の種類について解説していきましょう。
遺族基礎年金の受給要件と受給対象者について
遺族基礎年金の受給要件
遺族年金の受給要件(受給資格)は、以下の①~④のいずれかを満たしている人が亡くなった時です。
- ①国民年金被保険者が死亡したとき
- ②国民年金の被保険者であった60歳以上65歳未満の人で、日本国内に住所がある人が死亡したとき
- ③老齢基礎年金の受給中に死亡したとき
- ④国民年金の受給資格期間が25年以上ある人が死亡したとき
①と②の場合、保険料の納付要件(以下2つのいずれかを満たしている必要)があります。
- 死亡日の前々月までに国民年金の保険料納付期間と保険料免除期間の合計が3分の2以上であること
- 死亡日の前々月まで1年間の保険料支払いの滞納がないこと
遺族基礎年金の受給対象者
死亡した人に生計を維持されていた以下の遺族が受給対象者です。
- 子のある配偶者
- 子(18歳になった年度の3月31日を過ぎていない子、または20歳未満で障害年金の等級1級または2級の子)
遺族厚生年金の受給要件について
遺族厚生年金の受給要件
遺族厚生年金の受給要件(受給資格)は、以下の①~⑤のいずれかを満たしている人が亡くなった時です。
- ①厚生年金加入中に死亡したとき
- ②厚生年金加入中に初診日がある病気やケガが原因で初診日から5年以内に死亡したとき
- ③障害厚生年金1級・2級を受給している時に死亡したとき
- ④老齢厚生年金を受給している時に死亡したとき
- ⑤受給資格期間が原則25年以上あり、厚生年金の加入期間がある人が死亡したとき
①と②の場合、保険料の納付要件(以下2つのいずれかを満たしている必要)があります。
- 死亡日の前々月までに国民年金の保険料納付期間と保険料免除期間の合計が3分の2以上であること
- 死亡日の前々月まで1年間の保険料支払いの滞納がないこと
遺族厚生年金の受給対象者
死亡した人に生計を維持されていた以下の遺族のうち、優先順位の高い人が受給できます。
- 配偶者
- 子(18歳になった年度の3月31日を過ぎていない子、または20歳未満で障害年金の等級1級または2級の子)
- 父母
- 孫(子と同じ制限あり)
- 祖父母
被保険者の種類
国民年金の被保険者には、以下の3種類があります。
- 第1号被保険者・・・国民年金にのみ加入(主に自営業者・農業従事者・学生・無職の人など)
- 第2号被保険者・・・国民年金と厚生年金の両方に加入(法人・団体で働く会社員や公務員など)
- 第3号被保険者・・・第2号被保険者に扶養されている主婦などが対象
故人がどの被保険者に該当するかで、どの遺族年金が受け取れるかが決まります。
遺族年金はいくら貰えるのか?
遺族基礎年金と遺族厚生年金では、支給される金額が異なります。
それぞれの計算方法について紹介していきましょう。
遺族基礎年金の支給額
遺族基礎年金は77万7800円(2022年度の年金額)に子の加算を加えた合計が年金支給額となります。
- ・第1子、第2子は各22万3,800円
- ・第3子以降は各7万
- ※2人以上の子供だけが遺族基礎年金を受給する場合は第1子が77万7,800円、この加算は第2子以降について行います。1人あたりの年金額は子の数で割った額になります。
例えば、子が3人いる場合の配偶者の受給額は
となります。
遺族厚生年金の支給額
遺族厚生年金は、被相続人(亡くなった人)がもらえたはずの老齢厚生年金(報酬比例部分)に4分の3が支給額となります。
- 《遺族厚生年金の支給額の計算式(本来水準)》
- 平均標準報酬月額×7.125/1,000×2003年3月以前の加入月数
- +
- 平均標準報酬額×5.481/1,000×2003年4月以降の加入月数
- ×
- 3/4
計算式には上記した本来水準の他に、「従前額保障」という計算式がありますが、複雑なので本記事では割愛します。
これら2つの計算式で算出した年金額を比較し、多いほうの年金額が支給されます。
なお、遺族厚生年金には「中高齢寡婦加算」等が上乗せされることがあります。
遺族厚生年金は平均月収と下級機関で年金額が決まりますが、それだと若くして亡くなった場合の年金額が少なくなってしまいます。
そのため、加入期間が25年未満の人が亡くなった場合は原則25年加入したものとして計算されます。
特別支給の老齢厚生年金を受給していた場合
遺された妻が65歳前で特別支給の老齢厚生年金(特老厚)を受給していた場合、65歳前は1つの年金しかもらえないので、特老厚か夫の遺族年金、どちらか多いほうを選択する必要があります。
65歳以降であれば、妻自身の老齢基礎年金と老齢厚生年金を合わせた全額を貰った上で、夫の遺族厚生年金のほうが額が多ければその差額分を遺族厚生年金として貰うことになります。
遺族年金の請求手続き
遺族年金の請求手続きでは、年金請求書と添付書類を提出します。
遺族年金には時効があるので、請求手続きはできるだけ早く行います。
遺族年金の時効と請求手続きの流れについて説明しましょう。
遺族年金には時効がある
国民年金や厚生年金には5年の時効があります。
年金の受給権が発生してから5年以内に請求しないと5年を超過した分を受け取れなくなります。
したがって、遺族年金の請求手続きは速やかに行うべきと言えます。
遺族年金の請求手続きとその流れ
遺族年金を受け取るためには年金請求書と以下の添付書類を提出します。
- ①年金手帳
- ②戸籍謄本もしくは法定相続情報一覧図の写し
- ③世帯全員の住民票の写し
- ④死亡者の住民票の除票
- ⑤請求書の所得証明書
- ⑥子の所得証明書または在学証明書または学生証のコピー(義務教育終了前は不要)
- ⑦市区町村長に提出した死亡診断書のコピーまたは死亡届の記載事項証明書
- ⑧年金を受け取る本人名義の通帳等
※③~⑥はマイナンバーを記入すれば不要
これらの書類の提出先は、下記のとおりです。
遺族基礎年金の場合 | 住所地の市区町村役場、近くの年金事務所または年金相談センター |
遺族厚生年金の場合 | 近くの年金事務所または年金相談センター |
提出後1~2か月で「年金証書・年金決定通知書」が自宅へ郵送されて遺族年金の受給資格を得たことになります。
届いてから50日程経つと、年金の受給開始となります。
(参考:日本年金機構webサイト「遺族年金を請求する方の手続き」)
遺族基礎年金が受給できない場合の補償はどうなるのか?
遺族基礎年金は、子供がいない等条件に該当しない場合は貰えません。
しかし、何の補償もないというわけではありません。
遺族年金が貰えない人の生活のために、「寡婦年金」「死亡一時金」という制度が設けられています。
寡婦年金と死亡一時金について解説していきましょう。
寡婦年金 | 死亡一時金 | |
亡くなった人の要件 |
・国民年金の第1号被保険者として、保険料を納めた期間が10年以上 ・老齢基礎年金、障害基礎年金を受けたことがない |
・国民年金の第1号被保険者として、保険料を納めた期間が3年以上 ・老齢基礎年金、障害基礎年金を受けたことがない |
受給対象者 | 10年以上継続して婚姻関係にある妻で、60歳から64歳の間 | 生計を一にしていた①配偶者、②子、③父母、④孫、⑤祖父母、⑥兄弟姉妹 |
時効までの期間 | 原則として死亡日の翌日から5年 | 死亡日の翌日から2年 |
注意したいこと | 妻が老齢基礎年金を繰上げ受給している場合は× | 遺族に遺族基礎年金を受けられる人がいる場合は× |
請求手続き先 |
住所地の市町村役場、近くの年金事務所または年金相談センター |
寡婦年金の概要
夫を亡くした60~64歳の寡婦を対象としているのが寡婦年金です。
老齢基礎年金が受給開始になる65歳まで老齢基礎年金の4分の3が支給されます。
ただし、老齢基礎年金を繰上げ受給(65歳前に受給)すると寡婦年金は貰えなくなる点には注意です。
死亡一時金の概要
死亡一時金は、被相続人(亡くなった人)と生計を一(※)にしていた家族が1回だけもらえます。
受給額は保険料を納めた期間に応じて12万円~32万円となります。
寡婦年金と死亡一時金の両方の支給対象である場合は、どちらか1つを選択します。
生計を一にするとは?
- 日常の生活の資を共にすることをいいます。
会社員、公務員などが勤務の都合により家族と別居している又は親族が修学、療養などのために別居している場合でも、①生活費、学資金又は療養費などを常に送金しているときや、- ②日常の起居を共にしていない親族が、勤務、修学等の余暇には他の親族のもとで起居を共にしているときは、「生計を一にする」ものとして取り扱われます。
- 引用:国税庁webサイト「生計を一にする」
遺族年金まとめ
- 遺族年金には遺族基礎年金と遺族厚生年金があり、それぞれ受給額や請求手続き先が異なる
- 請求手続き後、1~2か月で年金証書・年金決定通知書が届き、そこから50日程経つと年金の受給が開始される
- 子どもがいない等で遺族年金を受給する条件に該当しない場合、寡婦年金か死亡一時金を受けることができる
以上、遺族年金について解説しました。