遺産相続には手間のかかる手続きや親族同士のトラブルがつきものです。
そこで遺言を遺しておけば、こうした手続きの負担軽減やトラブル防止に役立ちます。
しかし、そのためにせっかく作成した遺言書も発見されなければ意味がありません。
したがって、遺言書を作成して家族にその存在を知らせておき、紛失・改ざんのリスクを避けて保管することが大切です。
また、発見した遺言書は勝手に開封することはできず、検認を受けることで開封と相続手続きが可能になるため、検認に必要な書類と申し立ての流れについて把握しておくと安心です。
遺言書の役割と保管方法、遺言書が見つからない場合の探し方と検認手続き、検認前に開封してしまった場合の対処について確認していきましょう。
この記事では、遺言書の役割|保管方法と検認手続きについて、日野市・八王子市・立川市で相続手続き・遺言作成サポートをしている行政書士法人ストレートが解説します。
目次
相続手続きにおいて大切な「遺言」の役割とは?
「遺言」とはよく耳にする言葉ですが、遺言を遺すことで相続にどのような効果をもたらすかをご存知でしょうか?
「遺言」の効果と遺言がない場合について説明していきましょう。
遺言を遺すことで相続手続きやトラブル防止につながる
相続財産を「誰が」「どのように」引き継ぐのか遺言者本人が意思表示することを「遺言」といいます。
遺言を遺すことによって、遺言者の死後に相続人が行う相続人調査や相続財産の調査の手間が省けます。
また、相続人全員で遺産をどのように分けるか話し合う遺産分割協議を省略することも可能なため、相続トラブル発生を防止する役割が期待できるでしょう。
- 相続トラブルの原因は大きく分けると、
- ①誰が相続人になるのか?
- ②相続人同士でどう遺産を分けるかの話し合い(遺産分割協議)がうまくまとまらない
- ③相続税の問題
- の3つに分けられます。
遺言書がない場合はどうやって相続することになるのか?
遺言書が無い場合は原則として、
- ①相続人同士での話し合い(遺産分割協議)
- ②法律で定められた相続割合で相続(法定相続分)
という流れになります。
とはいえ、法定相続分は割合が定められているだけなので、不動産などの分割しづらい相続財産の運用については相続人同士で話し合うしかありません。
そのため、相続人に公平になるように遺言書を作成しておけば、こうした遺産分割の方法が決めづらい相続財産がある場合でも円滑な話し合いが可能となり、相続トラブルの発生防止につながるというわけです。
遺言書は死後見つかるよう保管することが大切
せっかく遺言書を作成しても、相続人に見つけてもらえなければ意味がありません。
ゆえに、遺言書の保管方法は発見しやすいよう工夫することが大切です。
遺言書の保管方法と、相続人が遺言書を見つけられない場合の探し方について説明していきましょう。
遺言書は死後発見されるよう保管方法を工夫する
遺言書は死後、速やかに発見されることが大事です。
そのためにも遺言書の存在自体を家族に明らかにしておく必要があるので、本人が持っている正本や謄本を発見しやすい場所に保管したり、公正証書遺言の存在を家族に知らせたりするなどしてその存在を知らせておきましょう。(正本を弁護士や税理士などに預ける方法もあります)
公正証書遺言は原本が公証役場に保管されているので改ざんや紛失のおそれはありませんが、特に気を付けたいのは自筆証書遺言や秘密証書遺言の場合です。
これらの場合は銀行の貸金庫に保管したり、弁護士や税理士など信頼できる第三者に保管を依頼したりすることをおすすめします。
また、封印する規定のない自筆証書遺言の場合でも、作成したら秘密の保持・変造・改ざん・汚損を防ぐために封印しておきましょう。
また、自筆証書遺言は2020年7月より始まった自筆証書遺言書保管制度を利用することで法務局の保管所に預けることも可能です。(詳細はこちらの記事をご覧ください)
なお、公正証書遺言以外は遺言者の死後、すぐに遺言者の住所地の家庭裁判所に届け出て検認の手続きをしなければ開封できません。
自筆証書遺言・秘密証書遺言の保管方法 | 公正証書遺言の保管方法 |
・銀行の貸金庫に保管する(貸金庫は相続が開始されると、相続人であっても他の相続人の同意を得なければ勝手に開けることができません) ・弁護士や税理士など信頼できる第三者に預ける ・自筆証書遺言書保管制度を利用して法務局に預ける(自筆証書遺言の場合) ※自筆証書遺言の場合、作成後は秘密の保持・変造・改ざん・汚損防止の観点から封印して保管するのがおすすめ |
公証役場にて保管される |
- 家族に遺言書の存在を知らせておくためには、遺言書を作成した事実と、自筆証書遺言や秘密証書遺言であれば誰に託したのか、公正証書遺言であれば、どこの公証役場で作成したのかなどを記した文書を貸金庫に保管しておくのもひとつの方法です。
- また、信託銀行では遺言書の保管や、遺言書を保管して遺言者の死後に遺言を執行する業務も行っているので利用する方法もあります。
相続人が遺言書を見つけられない場合はどうやって探せばいいのか?
遺言書の種類によって、探し方は異なってきます。
自筆証書遺言の探し方
自筆証書遺言は厳格な方式に則って遺言者自らが作成したものなので、遺言者の大事な財産と一緒に保管されている場合が多いと考えられます。
まずは預金通帳や不動産の権利証が保管されている場所を探してみてください。
また、貴重品ボックスや金庫、金融機関の貸金庫などがある場合は、こちらに保管されている可能性もあるので確認するといいでしょう。
公正証書遺言の探し方
公正証書遺言の場合は、作成した公証役場に保管されています。
全国の公証役場名、公証人名、遺言者名、作成年月日などを検索して調査することができるので、最寄りの公証役場に相談に行くといいでしょう。
また、公証役場に調査を依頼する際は、相続人であることを証明できる戸籍謄本類や本人確認書類などを持参することになります。
秘密証書遺言の探し方
秘密証書遺言の場合は公証役場には作成した事実が記録されますが、遺言者本人が持ち帰って保管するため、自筆証書遺言と同様に遺言者の大事な財産と一緒に保管されていると想定できます。
遺言書の開封には検認手続きが必要
遺言書の開封には検認を受ける必要があります。
検認とは何なのか?検認の申立てに必要な書類と手続きの流れとはどのようなものか?について説明していきましょう。
なぜ検認を受ける必要があるのか?
遺言書を発見した相続人(または遺言書の保管者)は、遺言者の死を知ったら速やかに家庭裁判所に遺言書を提出して検認手続きをしなければなりません。
ただし、公正証書遺言など検認手続きが不要なものもあります。
なお、検認とは何かについて裁判所のHPでは次のような記述がなされています。
「検認」とは、相続人に対し遺言の存在及びその内容を知らせるとともに、遺言書の形状、加除訂正の状態、日付、署名など検認の日現在における遺言書の内容を明確にして、遺言書の偽造・変造を防止するための手続きであり、遺言の有効・無効を判断する手続きではありません。(引用:裁判所HP「遺言書の検認」)
検認の申立てに必要な書類と手続きの流れ
遺言書の検認を受けるときには遺言者の最後の住所地の家庭裁判所に届け出て、検認の申し立てを行います。
検認の申し立てに必要な書類は主に以下のようなものになります。
- ①遺言書(封筒に入っていない遺言書はそのままの状態で提出)
- ②申立書(裁判所のホームページからダウンロード可)
- ③被相続人の出生から死亡までのすべての戸籍謄本
- ④相続人全員の戸籍謄本
これら必要書類を準備したうえで、遺言書1通につき800円の収入印紙と連絡用の郵便切手を添えて提出します。
検認の申し立てが受理されると、裁判所から相続人に対して検認期日が通知されます。
検認期日には、申立人が遺言書などを持参して家庭裁判所へ出頭し、同じく出頭した相続人などの立ち会いのもと家庭裁判所が遺言を開封、内容を確認します。
なお、申立人以外の相続人などが検認期日に出頭するかどうかは自由です。
検認の手続きが終了した後は、家庭裁判所に対し検認済証明書の交付申請を行います。
相続登記や預金口座の名義変更など、相続手続きをする場合は検認済証明書の提出が必要になるので必ず交付申請をしましょう。
検認を受ける前に開封してしまったらどうなる?
遺言書は遺言者の死後、家庭裁判所での検認の際にすべての相続人に立ち会いの機会を与えたうえでないと開封できないことになっています。
遺言書の検認を受けずに開封すると、ただちに遺言が無効になるわけではありませんが、遺言書の改ざんなどが争われるリスクが非常に高まります。
また、検認を受ける前に開封すると5万円以下の過料に処せられるので、うっかり開封してしまわないよう注意しましょう。
なお、誤って開封してしまった場合でも遺言が無効になったり相続権を失ったりするわけではないので、開封の前後に関わらず、慌てず速やかに検認を受けてください。
遺言書の役割|保管方法と検認手続きのまとめ
- 遺言を遺すことで相続手続きの負担を軽減し、相続トラブル防止につながる
- 遺言書の存在を家族に明らかにし、保管の際は紛失・汚損・改ざんなどのリスクを回避できるよう工夫する
- 遺言書は検認を受ける前に勝手に開封してはならない
- 検認済証明書は相続登記や預金口座の名義変更など相続手続きに必要となるので交付申請する
以上、遺言書の役割|保管方法と検認手続きについて解説しました。