「相続」と「遺産分割」はどちらもよく出てくる言葉ですが、2つの違いをはっきり把握している方はそう多くないかもしれません。
相続人が1人の場合はその人が財産のすべてを相続することになりますが、相続人が複数人いる場合、「相続」をするためには「遺産分割」をする必要があります。
遺産分割は相続人同士で、遺産を誰がどのように引き継ぐのか話し合いをして決めることをいい、これを遺産分割協議といいます。
遺産分割協議は相続人全員で参加しなければ成立させることができませんが、全員で参加できない事情がある場合やいったん成立した遺産分割のやり直しの可否、遺産分割協議の期限の有無など、一連の手続きの流れについて解説していきましょう。
この記事では、遺産分割協議のやり方について、日野市・八王子市・立川市で相続手続き・遺言作成サポートをしている行政書士法人ストレートが解説します。
※相続税のご相談については、提携している税理士を紹介いたします。
目次
遺産分割と相続の違い
相続とは財産を受け継ぐことで、相続人が1人の場合にはその人が財産のすべてを受け継ぎますが、相続人が複数人いる場合は誰がどのように財産を相続するのか、相続人全員で話し合って決める必要があります。
つまり、「相続」をするために必要な手続きが「遺産分割」ということになります。
相続と遺産分割、それぞれの言葉の意味について解説しましょう。
被相続人の権利や義務を引き継ぐことを相続という
相続とは、相続人が被相続人の財産上の権利と義務のいっさいを引き継ぐことをいいます。
「財産上の権利と義務のいっさい」というのは、借金などの債務や損害賠償責任などのマイナスの財産も受け継ぐということです。
相続は被相続人が亡くなると同時に開始されます。(裁判所から失踪宣告を受けた人の場合も死亡したとみなされて相続が開始されます)
遺産をどう分けるか話し合うのが遺産分割
相続人が複数人いる場合、遺産を「誰が」「どのように」受け継ぐか話し合い(協議)で決めるのが遺産分割です。
遺産分割協議は相続人全員で行わないと成立しません。
遺産分割協議を終えるまでの間、遺産は相続人全員の共有状態にあり、1人の判断で勝手に使ったり処分したりすることはできません。
- 遺産分割協議は全員が参加しなければなりませんが、相続人の中に未成年者がいる場合、一般的には親権者が未成年者の法定代理人になります。
- ただし、親権者も相続人の1人である場合は利益相反行為が生じるため代理人になれないので、家庭裁判所に申立てをして特別代理人を選任してもらうことになります。申立ては親権者や他の相続人が行います。
遺産分割の方法は3つ
相続人が2人以上いる場合は財産を分割することになります。
分割の方法には
- ①指定分割
- ②協議分割
- ③調停分割・審判分割
の3つがあります。
①指定分割=被相続人の遺言に従う
被相続人が遺言で財産の分割方法を指定している場合はそれに従います。これを「指定分割」といいます。
遺言による指定が法定相続分と違っていても原則として遺言に従いますが、遺留分の請求があった場合はこの限りではありません。
また、相続人全員の合意があれば、遺言による指定に従う必要はありません。
②協議分割=相続人同士の話し合い
遺言による指定がない場合は相続人全員が協議(話し合い)をして分割します。これを「協議分割」といいます。
一般的には法定相続分を目安に、各相続人の生活状況などを考慮して全員が合意できる分割内容となるように話し合います。
また、協議の際には「特別受益」や「寄与分」についても考慮します。
③調停分割・審判分割=遺産分割協議がまとまらない場合
協議分割は相続人全員が合意できないと成立しません。
したがって、遺産分割協議がまとまらないときは家庭裁判所に「遺産分割の調停」または「遺産分割の審判」を申立てることができます。
先に審判の申立てをしても、一般的には先に調停手続きが行われ、調停不成立の場合に審判手続きに移行することになります。
審判による遺産分割では、当事者が遺産分割に納得していなくてもその決定に従うことになります。
全員で遺産分割協議ができない場合の手続きはどうするのか
- 海外などの遠方で暮らしている
- 行方不明者がいて連絡がとれない
- 遺産分割協議中に相続人が死亡してしまった
以上のような事情によって、遺産分割協議に参加できない相続人がいる場合はどうやって遺産分割協議を進めればいいのでしょうか?
確かに、遺産分割協議は原則として相続人全員で行わなければなりませんが、最も重要なのは全員が協議の内容に同意しているかどうかです。
つまり、全員が協議に参加できない場合は電話・書面などで協議を行い、全員が協議の内容に納得すればいいことになるので、遺産分割協議の押印も郵送などで順に回していくなどして対応します。
全員で遺産分割協議ができない場合の手続きに関する詳細はこちら
遺産分割協議書の作成は必要か?
遺産分割協議書は相続人が複数人いる場合や相続登記・相続税の申告手続きなどの際に必要となります。
遺産分割協議書を作成する目的と書き方について説明していきましょう。
遺産分割協議書は相続手続きやトラブル防止に必要
遺産分割協議書を作成することで、遺産分割協議が成立した証拠として遺産分割の内容を明らかにするという目的があります。
作成すれば後々、一部の相続人が「そのような内容の合意をした覚えはない」と主張した場合のトラブル防止につながります。
また、遺産分割協議書は不動産や預金口座の名義変更や相続税の申告など、さまざまな手続きの中で提出が求められます。
遺産分割協議書の書き方と文例
遺産分割協議書に規定の書式はないので自分で作成することができますが、必要な記載事項は押さえておかなければなりません。
- 遺産分割協議書であることが分かるタイトル
- 被相続人の名前・死亡日
- 相続人が誰であるかを明確に記載
- 遺産分割協議によって決定した各相続人の取得財産
- 協議を行った日付
- 相続人の署名と押印(実印)
また、遺産分割協議の後に新たな財産が見つかる可能性もあるため、後で見つかった遺産をどうするか事前に決めて記載しておくとトラブル回避につながるでしょう。
なお、遺産分割協議書はパソコンで本文を作成することも可能です。
遺産分割協議書の記載例
-
遺産分割協議書
- 被相続人 真直太郎
- 本籍 東京都日野市〇〇町〇丁目〇番
- 最後の住所地 埼玉県△△市✖✖町〇丁目〇番〇号
- 生年月日 昭和〇〇年〇月〇日 死亡年月日 令和〇〇年〇月〇日
- 真直太郎の死亡により開始した相続について、共同相続人である真直二郎、真直三郎の全員で遺産分割協議を行い、下記の通り分割し、取得することを決定した。
- 1.相続人 真直二郎は次の財産を相続する。
- 1)土地
- 所在:東京都〇〇市〇〇町〇丁目
- 地番:〇〇番〇〇
- 地目:宅地
- 地籍:111平方メートル
- 2)建物
- 所在:東京都〇〇町〇〇町〇丁目
- 家屋番号:〇番〇
- 種類:居宅
- 構造:木造瓦葺2階建
- 床面積:1階99.9平方メートル
- 2階99.9平方メートル
- 2.相続人 真直三郎は次の財産を相続する。
- 1)預貯金 〇〇銀行〇〇支店 定期預金(口座番号00000000)1000万円
- 2)預貯金 〇〇銀行〇〇支店 普通預金(口座番号00000000)500万円
- 3.本協議書に記載がない遺産及び後日判明した遺産については、相続人全員でその分割について再度協議するものとする。
- 令和5年3月24日
住所 埼玉県〇〇市〇〇区〇丁目〇番〇号
相続人 真直二郎 印
住所 埼玉県〇〇市〇〇区〇丁目〇番〇号
相続人 真直三郎 印
いったん成立した遺産分割をやり直すことはできるのか?
いったん成立した遺産分割でも、やり直しが認められる場合があります。
遺産分割のやり直しが認められる場合と、遺産分割に無効・取消しがあった場合のやり直しについて解説していきましょう。
遺産分割をやり直すことは可能
いったん有効に成立した遺産分割協議でも、相続人全員の合意が得られた場合は後からやり直すことが認められます。
遺産分割協議の成立後、新たな相続財産が見つかった場合も遺産分割協議を全てやり直す必要はなく、その財産についてのみ、新たに遺産分割を行うことができます。
無効・取消しとなった遺産分割はやり直す必要がある
次のような場合は、遺産分割をやり直す必要があります。
- ①遺産分割協議に参加していない相続人がいた場合
- ②協議に親と未成年の子が両方参加していた場合
- ③協議に認知症など意思能力のない人が参加していた場合
- ④遺産分割の内容に錯誤や詐欺などがあった場合
①遺産分割協議に参加していない相続人がいた場合
遺産分割協議は相続人全員が参加しなければならず、一部の相続人が参加していない遺産分割協議は無効となるのでやり直さなければなりません。
②協議に親と未成年の子が両方参加していた場合
遺産分割協議に親と未成年の子が両方参加していた場合は、利益相反行為が生じるため遺産分割協議は無効になります。この場合、家庭裁判所で子の特別代理人を選任して協議をやり直すことになります。
③協議に認知症など意思能力のない人が参加していた場合
相続人の中に意思能力のない人(認知症など)がいた場合も無効になります。この場合は成年後見人を選任した上で遺産分割協議をやり直す必要があります。
④遺産分割の内容に錯誤があった場合
遺産分割協議は相続人全員の意思を合致させて相続財産を配分するという性質の行為であるため、詐欺や脅迫によって遺産分割の内容に錯誤(思い違い)があった場合は取消しを主張して遺産分割協議をやり直すことができます。
ただし、取消しには時効があり、錯誤していたと気づいた時から5年過ぎるとやり直しができません。
- 被相続人の配偶者と子による遺産分割協議の成立後に子の認知が生じて相続人が追加されることになった場合は、遺産分割協議をやり直す必要はありません。
- このとき、認知された子は他の相続人に相続分に相当する金銭の支払いを請求できるに留まるからです。
いつまでに遺産分割協議を成立させればいいのか
遺産協議自体に期限はありませんが、相続税の申告期限との関係上、税額の軽減措置を受けるためには10ケ月以内に遺産分割協議を成立させる必要があります。
相続税申告には「小規模宅地の特例」や「配偶者控除」などの税額の軽減措置がありますが、期限内に申告できそうになければ税務署に相談してみましょう。
また、相続税の申告期限を過ぎると相続税に加え、無申告加算税や延滞税が課される可能性があります。
税務署で悪質と評価されると「重加算税」という重いペナルティが課せられることもあるため、注意しましょう。
そもそも、民法では遺産分割協議そのものに関して、いつまでに成立させなければならないという期限を設けていません。
しかし、相続財産を放置し続けることはさまざまな観点から得策ではないのです。
遺産分割協議のやり方まとめ
- 相続人が複数人いる場合、「相続」をするために「遺産分割」の手続きを行う必要がある
- 遺産分割には遺言に従う「指定分割」、相続人同士で話し合う「協議分割」、協議がまとまらないときに申し立てる「調停分割・審判分割」がある
- 全員で遺産分割協議ができない場合は電話・書面などで協議を行い、押印も郵送などで対応する
- 遺産分割協議書の作成することで名義変更や相続税申告の手続きやトラブル回避策として活用できる
- いったん成立した遺産分割でも、全員の合意があったり、遺産分割に無効・取消しがあったりした場合は遺産分割をやり直すことが可能
以上、遺産分割協議のやり方について解説しました。