遺産を誰にどのように分けるかを話し合う遺産分割協議は相続人全員で話し合いますが、事情によっては協議の全体および一部の相続財産に関する遺産分割協議をやり直すことが可能です。
また、遺産分割協議でもめて話し合いができない状態の場合、家庭裁判所に遺産分割の調停あるいは遺産分割の審判を申し立てることができます。
この記事では、
- 遺産分割協議のやり直しは可能か?
- 協議のやり直しが必要なケース・不要なケース
- 遺産分割協議がまとまらない場合
- 調停と審判の流れ・申立て・必要書類
- 相続税の申告期限まで(10ヵ月以内)に協議がまとまらない場合
について、日野市・八王子市・立川市で相続手続き・遺言作成サポートをしている行政書士法人ストレートが解説します。
目次
遺産分割のやり直しは可能なのか?
いったん有効に成立した遺産分割協議について、相続人全員の合意が得られた場合は後からやり直すことが認められます。
協議全体および、一部の相続財産に関する遺産分割協議のみをやり直すこともできますが、成立したはずの遺産分割協議が後から無効になったり、取り消されたりする場合がある点には注意しましょう。
なお、遺産分割協議は、相続人全員の意思を合致させて相続財産を配分するという性質の行為であるため、契約などと同様、錯誤や詐欺に基づく取り消しによって遺産分割協議の効力が否定される場合があることにも注意する必要があります。
遺産分割協議のやり直しが必要なケース
相続人全員が遺産分割協議に参加していない場合
遺産分割協議が無効になる理由として、相続人全員が遺産分割協議に参加していない場合が挙げられます。
遺産分割協議は相続人全員が参加しなければならず、一部の相続人が参加していない遺産分割協議は無効となるのでやり直さなければなりません。
協議に認知症など意思能力のない人が参加していた場合
相続人の中に意思能力のない人(認知症など)がいた場合は遺産分割協議が無効になります。この場合は成年後見人を選任した上で遺産分割協議をやり直す必要があります。
協議に親と未成年の子が両方参加していた場合
遺産分割協議に親と未成年の子が両方参加していた場合は、利益相反行為が生じるため遺産分割協議は無効になります。この場合、家庭裁判所で子の特別代理人を選任して協議をやり直すことになります。
遺産分割の内容に錯誤があった場合
遺産分割協議は相続人全員の意思を合致させて相続財産を配分するという性質の行為であるため、詐欺や脅迫によって遺産分割の内容に錯誤(思い違い)があった場合は取消しを主張して遺産分割協議をやり直すことができます。
ただし、取消しには時効があり、錯誤していたと気づいた時から5年過ぎるとやり直しができません。
遺産分割協議のやり直しが不要なケース
子の認知が生じた場合
被相続人の配偶者と子による遺産分割協議の成立後、子の認知が生じて相続人が追加されることになった場合は、遺産分割協議をやり直す必要はありません。
このとき認知された子は、他の相続人に相続分に相当する金銭の支払いを請求できるに留まるからです。
新たな相続財産が見つかった場合
遺産分割協議の成立後、新たな相続財産が見つかった場合も遺産分割協議を全てやり直す必要はありません。その財産についてのみ、新たに遺産分割を行うことができます。
遺産分割協議がまとまらないときの対応
家族や親戚が亡くなると、遺産分割協議を行うことになります。しかし、遺産分割協議で揉めて話し合いができない状態のときは、家庭裁判所に
- ①遺産分割の調停
- ②遺産分割の審判
を申し立てることができます。
①遺産分割調停
遺産分割調停では、相続人のうちの1人もしくは複数人が申立人となり、ほかの相続人全員を相手方として家庭裁判所に申立てます。
そして、家事審判員や調査委員の立ち会いをもとに、相続人が集まり、納得できる形での合意を目指して話し合います。調停はあくまでも話し合いの手続きなので、最終的には相続人全員の合意が必要です。
家事審判官や調査委員はアドバイスをしてくれますが、結論は当事者が決定することで調停が成立します。
なお、調停成立後、相手方が結論に従わないときは強制執行が可能です。
家庭裁判所への申立てと提出書類
調停の申し立てには、相手方の住所地の家庭裁判所または当事者が合意で定める家庭裁判所に行います。その際の必要書類は次の通りです。
- ①申立書(当事者等目録・遺産目録・相続関係図)
- ②被相続人の除籍謄本・改製原戸籍謄本など(相続人によって異なる)
- ③相続人全員の戸籍謄本・住民票
- ④遺産に関する書類(遺産目録・不動産登記事項証明書・限定資産評価証明書・預貯金の残高証明書等)
- ⑤収入印紙(被相続人1名に対し1,200円)
- ⑥郵便切手
参考:裁判所HP「遺産分割手続の申立てに必要な書類について」
誰が相続するのかによって必要となる戸籍の範囲が変わるので、事前に家庭裁判所に問い合わせるなどして確認してから申し立てましょう。
②遺産分割審判
審判は家庭裁判所に判断を委ねられます。裁判所の裁判官と調停委員が調停委員会を構成して事実調べ・証拠調べを行い、事情をよく把握したうえで家事審判官によって分割が命じられます。
審判による分割方法が不服な場合は、2週間以内に高等裁判所に即時抗告をして争うこともできます。
いきなり審判を申し立てることもできますが、調停に回されることが多く、調停が不成立となった場合は自動的に審判に移行します。
審判の申立て・必要書類
審判の申立ては、被相続人の住所地の家庭裁判所に行います。必要書類は次の通りです。
- ①申立書(当事者等目録・遺産目録・相続関係図)
- ②被相続人の除籍謄本・改製原戸籍謄本など(相続人によって異なる)
- ③相続人全員の戸籍謄本・住民票
- ④遺産に関する書類(遺産目録・不動産登記事項証明書・限定資産評価証明書・預貯金の残高証明書等)
- ⑤収入印紙(被相続人1名に対し1,200円)
- ⑥郵便切手
参考:裁判所HP「遺産分割手続の申立てに必要な書類について」
- 相続財産は法定相続分に応じて分割されるのが原則的な取り扱いです。もちろん、当事者間の事情や実態を総合的に考慮して分割方法を調整することにはなりますが、調停や審判による遺産分割であっても、原則として法定相続分に応じての分割が一般的です。
相続税の申告期限までに遺産分割協議がまとまらない場合は?
管轄の税務署に相談しましょう。
相続税の申告には「配偶者控除」や「小規模宅地等の特例」などの、税額の軽減措置があります。しかし、申告の期限である10ヵ月を過ぎると、軽減措置が利用できなくなる場合があるので注意しなければなりません。
遺産分割協議がなかなかまとまらず、期限内に申告できないときは申告期限の延長が認められる場合があります。また、申告期限を過ぎることで「無申告加算税」や「延滞税」などがかかってくる可能性もあるので、税務署に相談することをおすすめします。
遺産分割協議がまとまらない場合&遺産分割のやり直しまとめ
- いったん有効に成立した遺産分割協議については相続人全員の合意があれば後からやり直すことが可能
- 遺産分割協議に相続人全員が参加していなかった場合は協議のやり直しが必要
- 子の認知が生じて相続人が追加された場合は遺産分割協議のやり直しは不要
- 新たな財産が見つかった場合はその財産についてのみ遺産分割協議を行えばいい
- もめて話し合いができず、遺産分割協議がまとまらない場合は遺産分割調停・審判を申し立てることができる
- 相続税の申告期限(10ヵ月以内)までに協議がまとまらない場合は税務署に相談する
以上、遺産分割協議がまとまらない場合&遺産分割のやり直しについて解説しました。