被相続人の財産の維持や増加について多大な貢献をした相続人が、他の相続人よりも多くの相続財産を分けてもらうことができる制度のことを寄与分といいます。誰がどのくらいの額を受け取れるのか、寄与分が認められる要件と算定方法について紹介しましょう。
また、相続人でない親族が被相続人に対して無償で療養看護などの労務を提供し、特別の寄与をした場合に請求できる「特別寄与料」という制度と、寄与分と遺贈・遺留分の関係についてもわかりやすく説明しています。
この記事では、寄与分について、日野市・八王子市・立川市で相続手続き・遺言作成サポートをしている行政書士法人ストレートが解説します。
目次
記事の要点
この記事で解説している内容について、わかりやすく要約すると次のとおりです。
- 寄与分とは、被相続人の財産の維持や増加について多大な貢献をした相続人が、他の相続人よりも多くの相続財産を分けてもらえる制度のことで、身分関係に基づいて通常期待される程度を超える行為が必要。→詳細へ
- 寄与分が認められるための要件には類型があり、それぞれの算定方法ある(①家事従事型、②療養看護型、③財産提供型)→詳細へ
- 特別寄与料とは、相続人以外の親族が被相続人に対して無償で療養看護などの労務提供をしたことにより、相続人に対して特別寄与料として金銭の支払いを請求できる制度のこと。→詳細へ
- 特別寄与料が認められるには、財産の給付等では要件を満たせず、療養看護などの労務提供や、その行為によって被相続人が出費を免れ、または財産を増やすことができたと認められることが必要。→詳細へ
- 寄与分の金額上限は「すべての相続財産の価額-遺贈の価額」の残額であるため、遺贈は寄与分よりも優先される→詳細へ
- 寄与分と遺留分が同時に発生した場合、法律上は寄与分の金額上限は遺留分を考慮しないため寄与分が優先され、寄与分の主張によって遺留分の侵害を受けても遺留分侵害額請求を行うことはできない。(実際には遺留分を侵害するほどの寄与分の主張が認められる可能性は低い)→詳細へ
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寄与分とはどのような制度か?
被相続人の財産の維持や増加について多大な貢献をした相続人が、相続人間の経済的な公平を図る観点から、他の相続人よりも多くの相続財産を分けてもらえる制度を「寄与分」といいます。
寄与分が認められるためには「特別の寄与」があったことが必要であり、次の範囲内の行為についての寄与分は認められません。
- 夫婦間の協力扶助義務(民法752条)
- 親族間の相互扶助義務(民法730条)
- 扶養義務(民法877条)
たとえば、両親の世話をしたからといっても、親子なら当然だとされてしまう可能性があるので特別な寄与にはあたりません。
そして、特別の寄与があったと判断されるには、普通はそこまでできないと思われる次のような行為が必要です。
- ①報酬などの対価を得ていなかった
- ②長い期間にわたり貢献を継続
- ③被相続人に対する貢献を主要な目的としていた
寄与分が認められるための要件
寄与分が認められるのは「被相続人の財産の維持または増加に特別の寄与」をした場合ですが、その類型として次の3つがあるとされています。
- ①家事従事型
- ②療養看護型
- ③財産提供型
3つ類型に応じた寄与分の成立要件と算定方法を解説していきましょう。
家業従事型
被相続人が営んでいた家業に従事していた場合の寄与分の成立要件についてです。特別な寄与といえる具体的な要件として次の3つが挙げられます。
- ①身分関係に基づいて通常期待される程度を超えるものである
- ②一定の継続性および専従性が認められる
- ③それが無償または低廉な対価でなされていた
これら3つの要件をすべて満たしていると、寄与分が認められることとなります。
従業員と同様の給与をもらっていた場合には、寄与分が認められない点に注意しましょう。
【算定方法】家業従事型の場合の寄与分
寄与分に相当する具体的な金額を定める方法による場合、一般的には次のとおりに算定されます。
- 寄与分額=年間の適正報酬額×(1-生活費控除割合)×寄与年数
療養看護型
被相続人の療養看護をしていた場合の寄与分の成立要件についても、家業従事型と同様、次の3つの要件すべてを満たしていることが必要です。
- ①身分関係に基づいて通常期待される程度を超えるものである
- ②一定の継続性および専従性が認められる
- ③それが無償または低廉な対価でなされていた
なお、どの程度なら寄与分が認められるかの目安としては、被相続人が介護保険における要介護度2以上の状態にあるかどうかが参考になるとされています。
【算定方法】療養看護型の場合の寄与分
具体的な寄与分額について、一般的には次のとおりに算定されます。
- 寄与分=介護報酬相当額(要介護度2以上)×療養看護の日数×裁量割合(※)
- 相続人が看護の専門家でないことを踏まえ、身分関係・病状・看護の程度などに照らして相当と認められる一定の減額割合をいい、0.5~0.8の範囲で定められるのが一般的とされています。
財産提供型
被相続人に金銭等の財産を提供した場合の寄与分についてです。
たとえば、不動産の購入資金の提供や高額な医療費介護費の負担をした場合などが挙げられます。これが身分関係について通常期待される範囲を超えるものである場合、寄与分が認められます。
【算定方法】財産提供型の場合の寄与分
寄与分に相当する具体的な金額を定める方法または相続財産のうちの特定物をもって寄与分と定める方法によることが多いです。
相続人以外の親族による特別寄与料の請求が可能に
相続人以外の親族による特別寄与料について法改正の経緯・要件・期限を解説していきましょう。
特別寄与料とは
特別寄与料とは、相続人以外の親族が被相続人に対して無償で療養看護などの労務提供をしたことにより、相続人に対して特別寄与料として金銭の支払いを請求できる制度です。
ここで特別寄与者となり得るのは、「被相続人の親族」(6親等内の血族・配偶者・3親等内の姻族(配偶者の血族のこと))であり、親族関係がなければ特別寄与料の請求はできないことになっています。
法改正の経緯
相続人に認められる寄与分は、被相続人の財産維持・増加に対する相続人の貢献について財産上の清算を行う制度です。しかし実際には相続人である被相続人の子ではなく、相続人の嫁や孫などが被相続人の療養看護に努めるなどして貢献する場合が多く見受けられます。
改正前までの寄与分の制度はあくまでも「相続人」に認められる制度だったので、相続人の妻や子による多大な貢献を考慮できないことが問題点でしたが、2019年7月1日施行の相続改正法により、相続人以外の親族が相続人に対して特別寄与料として金銭の支払いを請求できるようになりました。
特別寄与料が認められる要件
特別寄与料においては、寄与分より範囲が狭く、財産の給付等では要件を満たしません。成立には、次のような具体的な行為が必要です。
- ①療養看護や事業従事などの具体的な労務行為
- ②当該行為によって被相続人が出費を免れ、または財産を増やすことができた
なお、この特別寄与料の請求については期限(相続開始から6か月~1年以内)が設けられていることに注意しなければなりません。
寄与分・遺贈・遺留分の関係
寄与分と遺贈・遺留分では、どれがどのように優先されるのでしょう?それぞれの関係について解説します。
寄与分と遺贈はどちらが優先される?
寄与分の成立要件が認められた場合でも、寄与分権利者である相続人が取得できる財産がなければ、寄与分をもらうことはできません。その理由は、寄与分として受け取れる金額には上限にあります。
寄与分の金額上限は次のように計算します。
- 「すべての相続財産の価額」-「遺贈の価額」=残額(寄与分の上限金額)
寄与分として受け取れる金額は、この残額を超えることができないため、遺贈は寄与分よりも優先されると定められているのです。(民法904条の2第3項)
寄与分と遺留分が同時に発生した場合はどうなる?
遺贈が相続人の遺留分を侵害する場合、遺留分侵害請求が認められるので遺贈は遺留分には劣後します。
しかし、寄与分と遺留分が同時に発生した場合は、寄与分の金額の上限は遺留分について考慮する必要がないことから、寄与分が優先されます。また、寄与分の主張によって遺留分の侵害を受けたことを理由に遺留分侵害額請求を行うこともできません。
ただし、法律上問題がないとはいえ、寄与分を算定する際は遺留分についても配慮されるべきだとの指摘があります。よほどの事情がない限りは、遺留分を侵害するほどの寄与分の主張が認められるケースは少数であるといえるでしょう。
以上、寄与分と特別寄与料が認められる要件・算定方法について解説しました。